第31話 ◆最強のGランク
伊達が剣を構えるが早いか、ホブゴブリンは大きな怒声をあげた。
「「ギィイアアアアアアアア!!」」
自分たちの縄張りに侵入した者への威嚇行為。
伊達にもそれがすぐに理解出来た。
しかし、それはゴブリンの言い分であり、伊達はこの侵害を排除する仕事に就いている。
互いの視線には、明確な敵意があった。
ホブゴブリンたちは石斧を構え、伊達を囲うように動いた。
「そう易々と囲まれてたまるか」
そう言って、左に広がろうとしていたホブゴブリンの首を一瞬にして刈り取った。
直後、ホブゴブリンたちは気付く。敵の脅威に。
しかし、伊達は既に連撃の構えにあった。
2体目のホブゴブリンが伊達の脅威を知覚する前に、その攻撃は振るわれた。
頭頂部からの一刀両断は、残り3体のホブゴブリンの顔を恐怖で引き
脅威から恐怖へ、恐怖から逃避へ。
ホブゴブリンが背を向けようとした瞬間、伊達はその反応を凌駕し、正面に回って簡易的な奇襲を成立させた。
それと同時、大きく身体を捻り、2体のホブゴブリンの首を
最後に残ったホブゴブリンは、身体を震えさせ、逃避という行動をとる事さえ許されなかった。
「じゃあな」
伊達の声がホブゴブリンの脳に届くより早く、その首は宙を舞ったのだった。
実に十秒に満たないこの討伐は、誰にも知られる事はない――
――――はずだった。
伊達は気付かなかった。
観客席からズームで向けられるスマホのカメラに。
「……ヤバ」
男は盗撮したスマホを大事そうに抱え、陸上競技場を後にするのだった。
◇◆◇ ◆◇◆
天才派遣所では、仕事をしつつも物思いにふける相田の姿があった。キーボードのエンターキーをカタカタと押しながら、宙を見る相田。
(伊達くんがスマホ……出来れば連絡先を交換したい。でも、派遣所の権限で強引に知るのは違うし、伊達くんに合わせる顔がない。でもでも……プライベートで偶然伊達くんと会う確率って……無理だよね……。それなら、仕事終わりに派遣所の出口で出待ち……何て公私混同の極みじゃない)
テキストファイルの改行が三桁を迎える頃、相田は大きく息を吐いた。
「なーに
「え、
「あら、来ちゃいけないの?」
「最近八王子支部に入り浸りじゃない」
「そりゃ面白い子を見つけたんだから、気になるじゃない」
「それって、伊達くんの……事?」
「あはは、何警戒してるの。私は興味があるだけ。玖命クンにどれだけの潜在能力があるのか、ね」
ニヤリと笑う水谷と、むすっとする相田。
(興味が好意に変わるのなんて、ほんの少しのキッカケなんだから……)
頬を膨らませる相田を、水谷がくすくすと笑っていると、派遣所の休憩室から相田の同僚がやって来た。
どこか慌てている様子に、水谷は相田に指で合図を送る。
すると、相田は背後でこそこそ騒いでいる同僚たちに気付く。
「どうしたの?」
声を掛けると同時、同僚たちはハッとした様子を顔に浮かべた。
「相田さん……これ……!」
同僚が相田に見せたのは、同僚のスマホ。
緊急時でない場合、職務中に私物を触るのは禁止。
だが、休憩中の同僚がそれを知ってても尚、職場にスマホを持ち込んだ理由――相田の頭には緊急事態の文字が浮かぶ。
スマホを覗き込むと、そこにはホブゴブリン5体と対峙する男が映っていた。
「これは……伊達くん……!?」
動画のタイトルは――『ヤバい天才見つけた!誰かこいつの事、知らない?』。
相田がスマホを見たと同時期、水谷のスマホにも同様の動画のリンクが送られてくる。
動画を見るなり、水谷の口の端が上がる。
「……へぇ、世間の認知が早くなっちゃったね、玖命クン?」
動画に映る伊達
瞬く間にホブゴブリンを倒す姿に、動画のコメント欄は賑わいを見せていた。
――やっば! 今のどうやったの!?
――うわグロw
――この人めっちゃ強くない?
――解析班はよ。
――↑特定班だろアホ
――相手がホブだしこんなもんだろ
――装備も貧相だから低ランクだと思うけど、動きが異常
――つーか投稿主、これどうやって撮ったんだよ
動画は様々なかたちで配信され、転載されていく。
当然、それは、玖命をよく知る者の下へも届いてしまうのだった。
◇◆◇ ◆◇◆
「伊達先輩、ちょっとこれ観てください」
「キミ、仕事中にスマホは――ん? ……玖命?」
父――伊達
◇◆◇ ◆◇◆
「
「ん? 何々ー?」
「さっき友達から送られてきたんだけど、この人凄くない?」
「ん? んんんん~~~っ!?」
妹――伊達
「お、おおおおおお兄ちゃんっ!? ……あ!?」
◇◆◇ ◆◇◆
そんな世の動きなど知る
周りの視線に気付き……、
(何か、やたら見られてるような……?)
「やぁ、玖命クン」
「水谷さん、また来たんですか?」
「いやー、しばらくは忙しくなりそうだからね」
「大型の
「いやいや、忙しくなるのはキミの方だよ」
「はぇ?」
ニコニコとする水谷に見送られ、玖命は困り顔を浮かべた相田に報告するのだった。
「伊達
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