第30話 フリーランク
昨日の帰りが早かったからか、今日は早朝に天才派遣所にやって来た。
すると、始業に入ったばかりであろう相田さんの姿が目に入った。
「あら伊達くん」
「相田さん、おはようございます」
「おはようございます ん? 装備の新調したの?」
「
「うんうん、しっかり堅実だね。Eランクになれば装備の等級は上げてもいいかもね」
「わかりました。それと、GPSの導入をお願いしたいんですけど」
言うと、相田さんの手がピタリと止まった。
「伊達くん……スマホ契約したの?」
「はい、昨日」
「ふ、ふーん……そう、なんだ」
どこか相田さんの様子がぎこちない。
そわそわしているような、キョロキョロしているような。
「これなんですけど、お願いします」
スマホを手渡し、手続きをお願いする。
相田さんは俺のスマホをじーっと見た後、ぶんぶんと顔を振っていた。何か問題でもあったのだろうか。
「あ、うん。大丈夫だよ、勝手に登録したりしないからっ」
「ん?」
「あーうん、違うの。こ、この用紙の説明文をしっかり読んで、問題なければここに電話番号と自署をお願いします」
「わ、わかりました」
まくしたてるように言われてしまった。
忙しかったのだろうか。
その後、俺は天才派遣所の連絡先を登録しつつ手続きを済ませた。
昨晩、俺、
電話帳の名前が増えていくのは、ちょっとした充実感を味わえるような気がする。
◇◆◇ ◆◇◆
「討伐任務? 俺がですか?」
「うん、伊達くんはGランクだけど、既にホブゴブリンは倒せるみたいだし、この任務なんてどうかなーって」
依頼内容を見てみると、そこにはフリーランクと記載がある。
「なるほど、フリーランクの依頼ですか」
フリーランクとは依頼人が可能な限り、報酬を安くあげたい場合に使う天才派遣所の制度で、派遣所の職員が相応だと判断した者に割り振られる仕事だ。
「うん、でも安心して。スカウトからの情報では、ホブゴブリン5体だけって話だから」
スカウトは主に【脚力】系の天恵を得た天才の事である。
【脚力】系は移動に適しているが、戦闘には余り向かない。
だから偵察任務を割り振る事で、彼らの仕事と収入を守り、派遣所にも貢献できる仕組みを構築しているのだ。
戦闘系の天恵のようにアタリでもなければ、昔の俺のようにハズレでもないといった天恵である。
「ランクGだと……報酬は50000円」
「割安にはなっちゃうんだけど、この任務が終わったら、多分――」
「――多分?」
「あ、いや……これはまだ言っちゃいけないんだった。うん、でも伊達くんのタメになると思うから……どうかな?」
相田さんに言われると弱くなってしまうな。
まぁ、ホブゴブリンならいけるだろう。短時間で哨戒任務より稼げるだろうし、後半は訓練に当てられる。俺にとって悪い話じゃないだろう。
「わかりました、それじゃあこの討伐任務の手続きをお願いします」
「はい、ありがとうございますっ!」
◇◆◇ ◆◇◆
ホブゴブリンは、情報によれば近隣の陸上競技場にいるようだ。
公営の敷地内ともなれば、確かに安くあげたいというのもわかってしまう。
ランクの高い天才を雇用すれば、天才の報酬の高さを知っている市民からのプレッシャーは凄まじいだろう。
「うーん……ふてぶてしい……」
陸上競技場のど真ん中に居座る5体のホブゴブリン。
だがしかし、それ以上に気になる輩もいる。
「ヤバ……ホブとか初めて見たし! ヤバ!」
警察が立ち入りを禁じてるはずだが、陸上競技場程敷地が広ければ、スマホ片手に侵入する輩がいてもおかしくはない。
動画を撮りながらヤバイヤバイ言ってる男は、いかにもなチャラそうな男。
「そこのあなた、ここは立ち入り禁止ですよ」
一応、声掛けをする。
「うぉ? 何? アンタ天才?」
「天才派遣所から派遣された者です。外に出て警察の指示に従ってください」
幸い、ここはまだ観客席。
ホブ相手であれば、そこまで危険はない。
しかしこの男、軽犯罪を犯しているのがわからないのだろうか。
「ねぇねぇ、戦ってるとこ撮らしてよ? 俺も人気になって、お兄さんも人気になる。WINWINでしょ?」
「私は顔が晒されて、アナタは警察に事情聴取される事になるので、お互いの敗北しか見えないですね」
「はぁ~? カタイ事言うなよなー」
「いいから、外に出てください。それとも、ここに警察を呼んだ方がいいですか?」
「はぁ……わーったよ。さーせんでしたー」
そう言って、チャラ男は広場出口の方へと歩いて行った。
さて、ようやく仕事に取り掛かれるな。
俺は、観客席から陸上競技場まで跳び下り、ホブゴブリンと対峙した。
流石にこの距離から奇襲は厳しいからな。
だが、今の俺であれば――、
――【探究】を開始します。
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