第24話 剣皇の力1
その後、相田さんの懇願するような目に引き留められ、俺は退院した。
退院になったとの報告を二人に伝え、俺は相田さん、水谷と共に八王子支部まで戻る事になった……のだが、
「あ、あの……電車の方が……早いのでは?」
「私は顔が知られてるからね、タクシーの方が気兼ねなく動けるんだ。まぁ、一人の時は必要ないんだけどね」
と、右に座る水谷から説明が入る。
「俺、助手席に座った方がよかったのでは……?」
「タクシー会社と天才派遣所は相互協力関係を結んでいます。特段理由がない場合、三人での乗車は後部座席に座るという条件項目があるんです」
と、左に座る相田さんから説明が入る。
「だからといって、俺が真ん中になる理由は……」
「悪いね、私は窓側が好きなんだ」
「伊達くんが先に乗っちゃったから……」
と、両側から説明が入る。
いや、天才が二人後ろに乗って、天才派遣所の職員が前だと思うだろう、普通。まさか「伊達くん、もうちょっと詰めてくれる?」とか言われるなんて想定してないよ。
「むぅ……」
「何だい、窮屈かな玖命クン?」
ずいと距離を詰める水谷。
俺としてはミラー越しに見える運転手の目が痛いのだが?
「あ、あの……押さないでもらえます?」
「窮屈じゃないのなら、もう少しそちらに行ってくれ」
だがしかし、そちらとやらには相田さんがいるのだ。
「ちょっと
相田さんは俯きながら恥ずかしがっている。当然だ、身体がくっつき俺も恥ずかしい。
ところで、ミラー越しに見える運転手の目がとても痛いのだが?
「ふふふ……今日の私はイイ仕事をしたな」
そう言いながらニヤつく水谷。
確かに、
素晴らしい仕事をしたと言える。だが、彼女が言う仕事とは本当に
◇◆◇ ◆◇◆
「あ~……何かいつもより疲れたような……」
「ふふふ、楽しいドライブだったじゃないか」
「ふぅ……」
俺は疲れた顔で、水谷は清々しい顔で、相田さんは手で顔を仰ぎながら、三者三様にタクシーから降りる。
天才派遣所の八王子支部に戻った俺は、すぐに相田さんの手続きにより、最奥のレンタルスペースに通される。勿論、水谷も一緒である。
白を基調としたレンタルスペースでは、日々様々な事が行われている。机や給水道具、一通りのサービスは整えられており、時間内であれば訓練スペースで訓練をした後、シャワールームで汗を流す事も可能だ。
格安の使用料で使えるのだが、俺にはやはりまだ払えない。
せめて、伊達家の借金を返し終わるまでは……。
「この木剣を使うといい」
「はぁ……あの」
「何だい?」
「本当にやるんですか?」
「わざわざここまで来ておいて聞く事かい?」
本当なら、絶対に接点のない人なのに、この一週間でやたら接点が出来てしまった。
まぁ、嫌ではないのだが……とりあえずミッションをこなしておくか。
「わかりましたよ。その代わり、条件があります」
「条件?」
「妹に……サインをお願いします」
そう言うと、水谷は目を丸くした後、大きく噴き出したのだった。
「ぷっ、アハハハッ! そうか……うん。それは大事な条件だね。わかった、必ずサインをしよう」
目の端の涙を拭い、水谷は訓練スペースの中央に向かった。
途中、訓練スペースの四隅に仕掛けられているカメラをちらりと見た。なるほど、相田さんはカメラ越しに俺たちを見ている訳か。
どんな結果になるのかはわからないけど、俺だって見られるだけではない。
――今は……俺が視る番だ。
――【探究】の進捗情報。天恵【剣豪】の解析度20%。天恵【上級騎士】の解析度2%。
……へぇ、なるほどね。
【探究】について、また一つ判明した事がある。
戦闘の開始と共に、戦闘系の天恵の解析が進むが、使用していない天恵に関しては戦闘中で成長する事はない。
だが、こうして木剣に力を込めれば――、
――【探究】の進捗情報。天恵【剣豪】の解析度20%。天恵【上級騎士】の解析度2%。天恵【腕力C】の解析度14%。
【魔法士】の天恵を得れば、おそらく【魔力】系の天恵も解析が進むのだろう。
「それでは始めよう」
そう言うが早いか、水谷は一瞬で俺の背後に回り込んだ。
「はっ!」
反転し回転斬り。
「くっ!?」
受けに回るものの、かつてない一撃。
「へぇ、やっぱり凄いね。今のは剣士時代の私を再現した動きだったんだけど……受け切ったね?」
ニヤリと笑う水谷に、俺は背筋に走る悪寒を感じた。
なるほどなぁ、この人、根っからのバトルジャンキーだ。
「ハァアアアッ!」
「つぉ!? ちょ、ちょっと待ってください!」
「待たないよ!」
待てと頼もうが、水谷は攻撃の手を緩める事はない。
なら、こちらにも考えがある……!
「このっ!」
「おぉ! 凄いね、反撃する余裕がまだあるなんて!」
軽々と受けられてしまった。
――【探究】の進捗情報。天恵【剣豪】の解析度23%。天恵【上級騎士】の解析度3%。天恵【腕力C】の解析度16%。
だが……この人との戦いは、確実に俺を強くする。
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