第21話 ◆駆けつけた応援

 天才派遣所の相田よしみは、川奈ららからの応援要請にすぐに反応した。

 そして、自身が最も信頼出来る存在――巨大クラン【大いなる鐘】所属の水谷結莉ゆりに連絡を取ったのだ。

 水谷は友人の願いを了承し、即座に町田へと向かった。

 しかし、どんなに急いでも一時間はかかる距離。

 それは天才たちのGPSを管理する相田にもわかっていた。

 だからこそ、町田周辺の高位ランカーを探していた。


(伊達くん……お願いだから無事でいて……!)


 焦燥と共に見える願い。

 書き入れ時の時刻、八王子支部には高位のランカーはいない。


「神奈川の川崎と横浜支部から何か反応はあった!?」


 同僚に他県からの情報を聞くも、


「ダメです! どこも出払っていて対応出来る天才がいません!」


 ダンと叩かれる机。

 頼れる先が水谷だけという事実は、相田を追い詰めた。

 唇を噛み、苛立ちを見せる相田に、誰も声を掛けられなかった。

 しかし、そんな相田を驚かせる音が鳴ったのだ。

 それは、天才派遣所に設置されている固定電話。

 相田が祈る思いで受話器を取る。


「……も、もしもし?」

『あ、相田さんですかっ?』


 声の主は……、


「か、川奈さんね!? どうしたの!?」

『モンスターパレードは何とか収まりました』

「お、収まったって……それ、どういう事っ?」

『えーっと……え? あ、はい。伊達さんと代わりますね』

「え、ちょっと! だ、伊達くんも無事なのっ!?」

『え? あ、はい……何とか無事です。相田さんですよね?』


 聞き慣れたたその声に、相田は安心からかストンと腰を落とした。


「ぶ、無事でよかった……」

『ご心配おかけしました……それで、ちょっとお願いがあるんですけど……』


 伊達の言葉を聞き、再び立ち上がる相田。


「だ、大丈夫っ? 怪我でもしたの!?」

『いえ、それはかすり傷程度なので大丈夫なんですけど、ポータル攻略班をこちらに回してもらえますか?』

「あ、うん……それなら今、水谷さんが向かってるから」

『水谷さんが? それなら大丈夫そうですね。それともう一つ』

「何?」

『解体費用は払うので……出来れば出張解体お願いしたいんですけど……流石に身体がきつくて……ははは――』

「出張解体……数は……? 伊達くん? 伊達くん……?」

『わー!? だ、伊達さん大丈夫ですかぁ!?』


 電話口から聞こえてくる川奈の声。


「か、川奈さん! 伊達くんはっ!?」

『…………何か、いびきかいて寝ちゃいました……』

「はぁ……心配させないでよ……もう」

『え、何ですか?』

「う、ううん。念のため救急車を手配します。それで、川奈さん?」

『はい、何でしょう?』

「伊達くんが出張解体が必要だって言ってたんだけど、目算でどれくらいの解体が必要なの?」

『えーっと………………たぶん……400くらい?』

「………………へ?」


 ◇◆◇ ◆◇◆


「はぁ……はぁ……ここよね……っ! この異臭は……!?」


 異臭を辿り、援軍に駆けつけた水谷は、凄惨な現場を見、その光景に目を見張った。


「これは!?」


 眼前に広がるゴブリンの死体、死体、死体。

 辺りに広がる血の海と死臭。

 そんな中、水谷は異様な存在に目を奪われた。

 川奈の膝に頭を乗せ、大きく鼾をかく顔見知りの存在。

 水谷は伊達を見つけるなり、一瞬でその場へと跳躍した。


「わ、わっ! わ? ……け、けけ【剣聖】っ!?」

「キミが玖命クンのチームメンバーね?」

「み、水谷さんですよね!? 川奈ららといいます! お会い出来て光栄ですっ!」

「玖命クンは無事?」

「は、はい! モンスターを倒した後、相田さんには電話したんですけど、途中で意識を失うように眠っちゃって……」

「そうか、目立った外傷は無し……大丈夫だとは思うけど」

「あ、相田さんが救急車を手配してくれました」

「うん、それがいいだろうね。それより――」


 水谷は川辺を見ながら川奈に聞いた。

 否、聞かなければならなかった。


「何があったんだ? モンスターパレードが起こった……んだよね?」

「……えぇ、最初はゴブリン8体だけだったんです。でも、1体が隠れてて、それでそのゴブリンが川の中のポータルに逃げ込んで助けを呼んだみたいで……」

「……なるほどね。キミ、川奈さんだっけ?」

「は、はい!」

「ランクは?」

「Gランクです」

「あのゴブリンたちは二人で?」

「いえ、二人で倒せたのは2~30体くらいで……」

「残りは玖命クンが……」


 そう言うと、川奈はコクリと一つ頷いた。


(彼女が言ってる事に間違いはないだろう。ほぼ全てのゴブリンは剣によって殺されてる。だが、あの大きな衝撃を受けたような傷は……?)


 すると、水谷は川奈の隣に置いてある大盾に気付いた。


「……玖命クンは、これも使ったのか?」

「はい、私が立てなくなると、私を守るように……ずっと」

(…………ランクGの玖命クンがこの大盾を持って、400ものゴブリン、ホブゴブリン、ゴブリンメイジの混合部隊を倒した? ランクBだとしても、一人では出来ない大立ち回り。なるほど……よしみ、本当に興味深い子だね……)


 クスリと笑った水谷は、ちょこんとしゃがんでから伊達の寝顔を覗き込むのだった。

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