第9話 解明
凄いな……【腕力G】があるだけで、手に持つ訓練用の剣が軽くなった気がする。
これで俺の天恵は【探究】、【超集中】、【剣士】、【腕力G】か。……なかなかに反則的だな。
「ギギィ! ギーギャギーギャ!」
ゴブリンは俺を見つけるなり駆け寄って来た。
手には石のナイフと、石斧、そして……石のスリングショット。
ゴブリンは集団行動に長けている。
とはいえ、小学生並みの腕力である事から、油断さえしなければ一般人でも倒せる。
しかし、命のやり取りともなれば、ゴブリンの前に立てる者はそう多くない。
「「ギギャー!」」
挫折は何度も経験した。何度も現実を叩きつけられ、何度も這いつくばって、死の恐怖は……味わったばかり。
「なら……! っ! ハァアアアアアアアアッ!!」
ゴブリンの動きを掻い潜る【剣士】の身体能力。
瞬時に弱点を看破する【超集中】の天恵。
そして、鉄の剣を簡単に振るう【腕力G】の天恵。
これらが揃って、ゴブリン三体に負ければ、それこそ恥だ。
「「ギャ!?」」
それ以上の悲鳴は聞こえなかった。
三体のゴブリンを……瞬殺してしまった。
これが……戦闘系の天恵の力。
震える手を握る。
モンスターを殺した恐怖からの震え……?
いや、そうじゃない。これは、これからの俺の可能性への武者震い。
まったく……この身体能力があれば、ゴブリンジェネラルも楽勝だったろうに。
――【探究】の進捗状況。天恵【剣士】の解析度83%。
「よし!」
解体用のナイフは高校時代のアルバイトの貯金で買ったやつを使う。
本当なら大学の学費に使うはずだったのだが……まぁ、過去を振り返っても仕方ない。
「……おぉ、この大きさなら3000円はいくんじゃないか? ……こっちは2000円かな? ふむ、これは1000円っぽいな」
頭部にある魔石は、種ごとに大きさが違う。
この大きさでランク分けをしているのだが、当然、同種族でも大きさは変わる。
ゴブリンの魔石であれば、小指の先ほどの魔石が1000円。中指の先ほどの魔石が2000円。親指の先ほどの魔石が3000円といったところだ。
――天恵【探究】を開始します。対象の天恵【腕力G】を更に解析します。
「え?」
――【探究】の進捗状況。天恵【腕力G】の解析度60%。
――失敗。討伐リソースが足りません。
――天恵【腕力G】の解析度は60%で停止しました。
……また訳のわからない文言が出てきたな。
まぁ、なんとなくニュアンスはわかるのだが……。
つまり、【探究】の発動条件は現段階で三つに分類される訳か。
◆一つ、集中状態での天恵対象の捕捉。
◆二つ、集中状態での保有天恵の成長補助。これは訓練と実戦に分けられ、訓練なら訓練の、実戦なら実戦の経験リソースが分類される。その両方の条件をクリアする事で天恵が成長する。
◆三つ、集中状態で天恵対象を討伐する事。
なるほど、非常にわかりやすい。
確かに、過去の俺がどれも経験した事のない条件だ。
【探究】が発動するはずがない訳だ。
「うーん……二つ目はともかく……三つ目はまだあやふやだな。これがまかり通るなら、極論、ゴブリンを倒し続ければ【腕力SSS】の天恵を手に入れられるって事か?」
まぁ、やってみないとわからないか。
何事も
そうして、俺はまたゴブリンの捜索へと移った。
「ギャッ!?」
そして本日十体目のゴブリンを倒した時、ソレは起こった。
――【探究】が完了しました。天恵【剣士】の解析度100%。
――おめでとうございます。天恵が成長しました。
――天恵【剣豪】を取得しました。
「はははは! 凄い! 本来天恵の成長はEランクくらいが目安なのに……! それに……この身体能力……!」
目の端に映ったゴブリンへの攻撃で、俺は驚きに包まれた。
「っ!? ……な、何だ今の動き……?」
【剣豪】の天恵がもたらす驚異の動きを、俺は体感したのだ。自分でもどう動いたのかわからなくなる程、自分の動きは異常だった。
ゴブリンの間に出来た僅かな隙間を縫うように移動し、振り返った時には頭部への一撃を終えている。
これが成長した天恵【剣豪】。
だが……これ以上の世界を……あの水谷
そして、【剣聖】でも大怪我をするようなモンスターも……この世にいるという事か。
――【探究】が完了しました。天恵【腕力G】の解析度100%。
――おめでとうございます。天恵が成長しました。
――天恵【腕力F】を取得しました。
まだだ……まだ足りない。
俺の天恵【探究】と共に歩んだ軌跡は、これまで何の痕跡も残していなかった。
だが、ここからだ。
ここから歩む……最強への一歩。
調べて、暴いて、倒して、得る。
「天恵は一人一つ」という常識をぶち壊し、俺は頂へと登る。
「大丈夫……出来る!」
そう意気込んだ後、俺はチマチマとゴブリンの魔石採取をするのだった。
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