第114話 カミングアウト

「よし。今回はすぐに向かうぞ。遥希達よりも前に接近して問い詰めてやる」


 2時間目終了後、石井は遥希達の動向を認識してから教室を退出する。ブツブツと不満を口にするように独り言を呟きながら廊下を進む。


 隣のクラスの教室に到着するなり、石井は鋭い眼光で颯に接近する。


「おい、お前。ちょっとツラを貸せ」


 石井は喧嘩腰の態度で颯に接する。


 教室内の生徒達は奇妙な視線を石井に向ける。ヒソヒソと会話を交わす生徒達も現れる。時間の経過により以前に比べて石井に対する周囲に対する辺りは緩和したが、未だに残存する。それが今回の生徒達の反応で明瞭に露見する。


「え? どうして? 嫌だよ」


 颯は石井の命令を交わすように淡白に拒否する。


「は? 」


 予想だにしない返答だったのだろう。石井は間抜けな声を漏らす。そこから数秒ほど顔を固める。


「ふざけてるのか? 俺の命令を無視するとは。お前の秘密を今から拡散してやっても良いんだぜ? 」


 颯を自身の思うままに操作するために、石井は脅しを掛ける。


「おいおい。脅迫は良くない行為だぞ」


「そ、その声は…」


 石井は瞬時に背後の声に反応して振り返る。


 遥希達3人の姿が石井の背後に有った。


「石井君そこまでだよ」


 瑞貴は普段決して見せない軽蔑した眼差しで石井を見つめる。


「まさかお前達。気づいていたのか? 」


「ああ。気づいたというよりは発見したという方が正しいがな」


「天音っちとお前とのラインを確認して分かったんだし」


 遥希と愛海も包み隠さずに石井に対して瑞貴と同じ態度を取る。


「クソ! 俺の計画が崩れるわけだ。しくじりやがって」


 石井は八つ当たりするように自身の席に座る颯を睨み付ける。


 既に脅迫を克服した颯は怖けることなく真っ直ぐに石井の鋭い眼光を見つめ返す。


「お前達は全て知っているということだな。なら話は早い」


 石井は取り乱した心を落ち着かせるように邪悪を帯びた汚い笑みを浮かべる。


「こいつとお前達しか知らない秘密を今から教室全体に拡散するぞ。それでもいいか? 」


 石井は颯だけでなく遥希達3人も含めて脅しを掛ける。自身が完全に優位に立っていると思い込んだ顔も形成する。


「バカかお前。そんな脅しで私達3人が動じると思っているのか」


 遥希は呆れた顔で肩をすくめる。愛海と目が合うと指示を出すように目配せを送る。


「オッケーだし」


 愛海は遥希の目配せの意図を読み取り、制服からスマホを取り出す。


 両手で文字を打ち込む操作をする。


「今打ち終わって投稿したし! 」


「分かった。ありがとう愛海」


 遥希は満足したように微笑みながら愛海にお礼を伝える。


 次は自分とばかりに遥希は教壇まで移動する。


「な、なにをするつもりだ」


 石井は動揺を隠せない。予想外に取り乱した表情で教壇に立つ遥希を目で追い続ける。


 一方、颯、遥希、瑞貴、愛海は余裕ある様子を醸し出す。誰1人として取り乱した態度を見せない。


「先ほどSNSでも投稿したが。ここでも一応伝えさせて貰う。私、八雲遥希と中谷瑞貴と宮城愛海は同じ学校の天音颯と同棲している」


 遥希は教室の真ん中の教壇で堂々とカミングアウトする。


「「「「えぇ~。えぇぇぇ~~~~」」」」


 教室内内には生徒達の叫びのような大きな驚きの声が何度も響き渡った。

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