第112話 反省
10分ほど経過してようやく落ち着いた遥希。それまで暴れるように颯に怒りをぶつけていた。
また暴れないように、瑞貴の指示で颯と遥希はリビング内で離れた場所に身を置く。颯はソファに座り、遥希は食卓のイスに腰を下ろす。
リビングには静寂が続く。颯と遥希は当然として瑞貴と愛海も空気を読んで口を開こうとしない。
「すまない。完全に我を失っていた。皆に多大な迷惑を掛けてしまった」
今まで無言で俯いて食卓に座っていた遥希が立ち上がり、申し訳なそうな顔で謝罪する。
「いや、そんな。謝罪なんか必要ないよ」
遥希に影響を受けたように颯もソファから立ち上がった。反射的に遥希からの謝罪を拒否する。遥希から進んで謝罪を受けたことに少なからず罪悪感を感じてしまう。
「いや先ほどの暴れ方は迷惑しか掛けていない。私からの謝罪は必須だろう」
遥希は首を左右に振りながら颯の主張を否定する。
「だがこれだけは理解して欲しい。私は悔しくて悲しかったんだ。あのクズ2号に脅されていることを私に相談してくれなかったことが。1人で颯に背負わせて苦しい思いをさせてしまったことが」
「え…」
颯は遥希の言葉に顔が固まる。予想外の言葉だった。
「確かに私達のことを思っての行動なのは大いに分かった。でも私は颯にとってその程度の存在なのかとも思ってしまった。相談や秘密も打ち明けられないその程度の存在なのかと」
遥希は悔しさをぶつける様に食卓を軽く右手で叩く。
静かなリビングで遥希の食卓の叩いた音が軽く響く。
「うちも遥希ちゃんと似たような気持ちを感じたよ。正直に言うと、困っていたなら少しでも頼って欲しかった」
瑞貴も遥希に便乗するように自身の本音を口にする。真剣な眼差しで颯を一点に見つめる。
遥希と瑞貴と目が合った後、颯は自然と愛海と目が合う。
愛海も遥希と瑞貴と同じ考えを持つように無言で首を縦に振る。
彼女達3人の表情から嫌でも分かってしまった。
(あぁ~。3人はこんなに俺のことを思ってくれていたんだ。1人で抱え込みすぎたんだな俺は)
颯は遥希達3人の考えを理解し、自身の過ちを思い知った。
同棲は4人でしていることだ。そのことで何かしら問題が起こりそうであれば、それは颯1人の問題ではない。4人の問題にならなければならないのだ。
(こんな当たり前のことにも気づけないとはね。俺はバカで愚か者だ)
颯は大きな罪悪感を覚えると同時に大いに反省するために自身を心の中で責める。
(俺はこれから考え方を改める必要があるかな)
颯は真剣な眼差しで遥希、瑞貴、愛海とそれぞれ順番に目を合わせる。3人とも先ほどと目が変化していない。
「1人で抱え込んだ挙句、3人で黙っていた上、不快な行いを勝手にして。本当にごめんなさい」
謝罪の言葉を口にし、颯は丁寧に3人に向けて頭を下げた。
「いいや。簡単には許さん! 」
「うちも! 」
「愛海も! 」
遥希達3人は謝罪だけでは颯を許さない。
颯自身もそんなに甘い考えを持っていなかった。ただ頭を下げて謝罪をするだけでは許されないと覚悟はしていた。
「どうすればいいかな? 」
遥希は頭を上げ、3人に誠意のある態度で尋ねる。3人をただただ一直線に見据える。
「私の要望を何度も聞け! 」 「うちの頼みを聞いて! 」 「愛海の願望を叶えて! 」
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