第111話 お怒り

「うぅ~~ん。眠たい」


 先ほどベッドから起き上がった颯は眠たい目を擦りながら階段を1つずつ降りる。


 まだ意識は覚醒しておらず頭はスムーズに回転しない。


 颯が階段を降り廊下からリビングに移動する。リビングには遥希達3人の姿が有った。


 昨日の件もあり、遥希達を認識することで気まずさを感じる颯。つい先ほどまでの眠気が一気に吹き飛び、意識が完全に覚醒する。頭の回転も通常に近づく。


「颯、起きたばかりで悪いが。ちょっといいか? 」


 遥希が真剣な顔で問う。瑞貴も愛海も似たような表情を形成する。


 ただなる雰囲気がリビングに漂う。


「そ、それは構わないけど」


 3人の圧力に圧倒され、颯の返答が歯切れの悪いものとなる。


「そうか。なら良かった」


 遥希は淡白に答え、予め食卓に置いていた颯のスマホを手に取る。何度か操作をする。


「いきなりだが。どうして颯があのクズ2号とミインでメッセージを送り合っているんだ? 」


 遥希は颯に向けて見えるように彼のスマホを突き出す。


「クズ2号は石井君のことね」


 瑞貴が分かりやすいように補足で説明を加える。


「どうして俺のスマホを。それに何で…」


 突然の展開に頭が混乱する颯。知られたくなかった事実を遥希達に知られてしまった。そのショックは颯にとって非常に大きかった。


「どうしてかと言っているんだ。早く答えてくれないか? 」


 遥希は圧を掛けるように催促する。


「それは…」


 颯は逃げるように遥希達3人から目を逸らす。


 正直に打ち明けたい気持ちは大いに有った。遥希達に伝えてしまえば溜め込んだ物を吐き出す感覚でスッキリするかもしれない。1人で抱え込むのは正直しんどいのが颯の本心だった。


 しかし、 石井の脅しが颯の脳内を支配し続ける。


 秘密を握られて脅された事実を遥希達に話す。そこまでは良いかもしれない。しかし、そのことが石井に気づかれたら終わりだ。石井は必ず同棲の秘密を校内に好き放題に拡散するだろう。


 信頼や人気は以前に比べて格段に墜落したが、元学年1のイケメンである。少数の女子が石井の言葉に耳を傾けるかもしれない。耳を傾けた女子達が石井の言葉に飛び付き、より拡散が起こる。悪循環しかない。


「答えないなら私から切り出すぞ。昨日の私に対するスカート捲りや瑞貴のハグに対する拒絶。これらはあのクズ2号の指示で間違いないな? 」


「…」


 遥希の言葉に返答したい気持ちを胸中で強く抑えながら、颯は決して目を合わせずに無言を貫く。それしか出来なかった。


「言い逃れは出来ないぞ。証拠はミインのトーク履歴に全て残ってるからな」


 遥希は少し苛立ちを覚えた表情を浮かべる。


「颯君。正直に言って欲しい」


 一方、瑞貴は何処か心配そうに胸の前で右拳を握りながら颯だけを一途に見つめる。


「天音っち。愛海達から言わせる気? 」


 愛海の言葉が颯の胸に強く突き刺さる。 


(あぁ。もうバレてるんだなぁ)


 颯の胸中を諦めが支配する。既に全てがバレてることを嫌でも認識してしまう。


「ごめん。正直に言うと石井君に3人と同棲していることがバレたんだ。同棲のことを校内に拡散されると脅されて従わざるを得なかったんだ」


 颯は観念したように全てを遥希達に打ち明ける。


 あれだけ心に留めていたのにも関わらず、1度口にしてしまうとスラスラと言葉が出てきた。言葉に出す度に心がスッキリする感覚を味わった。


「…」


 遥希は無言で颯に接近する。


 颯は遥希の接近に不思議と恐怖を覚えてしまう。今まで味わったことの無い感覚であった。


 パァァァ~~~ン。


 空気を引き裂くような甲高い音がリビング内に大きく響き渡る。


 遥希が右腕を振り上げて颯の頬をビンタした。


「へっ」


 颯は一瞬なにが起こった関わらず間抜けな声を漏らす。


「どうして。…どうして私達に教えてくれなかったんだ~~!!! 」


 颯を強く責めるように叫ぶと。遥希は力強く颯の胸ぐらを両手で掴む。


 そのせいで颯のパジャマの胸ぐら部分が大きくヨレ曲がる。


「っ」


 あまりにも強烈な遥希の剣幕に颯は圧倒されて大きく動揺してしまう。


「ふざけるな~~。私はお前にとってその程度の存在だったのか~」


 普段決して大きく感情を露にしない遥希が顔を真っ赤にしながら颯を強く責め続ける。


「ちょ、流石に、はるっち一旦落ち着きなし!! 」


「そうだよ!! 早く颯君の胸ぐら放してよ!! 」


 あまりの遥希の変化に異変を感じたのだろう。愛海と瑞貴が止めに入る。 2人は強引に颯から遥希を引き剥がそうと試みる


「やめろ! 邪魔するな!! 」


 遥希は2人に抵抗するように一層に颯の胸ぐらを強く握り締める。少しの制止では遥希を止められる気配は無かった。


「ちょ!? やばすぎだって」


「こんな遥希ちゃん初めて見たかも」


 遥希の普段と現在の変貌のギャップが凄まじく、愛海と瑞貴は驚きを隠せなかった。


 颯も瑞貴と愛海と同様に困惑して全く抵抗が叶わなかった。

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