第108話 拒絶
キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン。学校内にチャイムが鳴り響く。
担任の締めの言葉を合図に、教室が一気に騒がしくなる。
教室に身を置く生徒達が動くによって、机やイスの擦れる音が多数重なる。
多くの生徒の出入りが教室内で頻繁に行われる。
「颯君!! 会いたかったよ~!! 」
帰りの支度を終えて自身の机から立ち上がる颯を発見するなり、廊下から教室に入った瑞貴が勢いよく彼にダイブするように抱き付く。
颯の立ち上がる姿を認識し、遥希は薄く微笑む。
愛海も遥希と一緒に颯の下を訪れる。
(くっ。ごめん皆)
遥希達の姿を視界に収めるなり、颯は胸中に鈍い痛みを覚える。本当はやりたくないが、弱みを握られた石井には逆らえない。
「…いたい」
瑞貴に決して視線を向けず、颯は機嫌の悪そうな口調で呟く。まるで小さく痛みを訴えるように。
「え? 颯君、大丈夫? もしかして私のダイブが原因? そうだよね? 」
颯の言葉を瞬時に理解したのだろう。瑞貴は顔色を変えて上目遣いで心配そうに颯を見つめる。
「…うん。それが原因だと思うよ」
依然として態度を変えずに、颯は素っ気なく答える。
「ご、ごめんね。颯君を傷つける気は微塵も無かったの。そこは分かって欲しいの。本当にごめんね」
瑞貴は真剣な表情で颯に謝罪する。非常に申し訳なさそうな顔を浮かべる。
「…ふ~~ん。あ、そう。次回から気を付けてね。無駄なケガはしたくないからね」
ショボンッとマイナスのオーラが全体的に瑞貴を包む。
「それと密着されて暑苦しいから離れてくれないかな? 」
瑞貴からの返事を待たず、颯は彼女を自身から引き剥がす。颯の良心から瑞貴がケガしないように雑には引き剥がさない。
「キャッ!? 」
瑞貴は悲鳴に似た声を上げる。
「「だ、大丈夫? 」」
颯によって引き剥がされた瑞貴に心配そうに声を掛ける遥希と愛海。
「う、うん。大丈夫」
瑞貴の顔には動揺が走る。
「颯君どうしたの? 今日の颯君なんか変だよ? 」
瑞貴は怯えたように颯の顔を窺う。
「ああ。瑞貴の言う通りだ。私もそう思うぞ」
遥希と愛海は心配そうに颯を見つめる。
(クソ。どうしてこんな嫌なことをしなければならないんだ。決してやりたくないのに)
颯は言葉にせずに胸中で自身を責める。同時に遥希達に申し訳ない気持ちになる。
だが、颯に石井の指示に逆らう選択肢は無かった。そこまでリスクを冒す勇気も無かった。
「そうかもね。今日は調子が悪いから1人で帰るようにするよ」
颯は早歩きで遥希達の横を通過する。
「お。おい! 」
「颯君? 」
遥希と瑞貴が信じられない顔で振り返る。彼女達に倣って愛海も同じ行動を行う。
しかし、颯は決して振り返らない。気持ちを押し殺しながら、颯は教室を退出した。
遥希達3人が颯に残される形となった。
一方、廊下には1人の男子の姿が有った。石井だ。
石井は教室を後にした颯を目で追いながら、可笑しそうにニヤニヤ笑みを溢していた。
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