第103話 膝まくら

 朝食対決は遥希の完全勝利で幕を閉じた。3人から提供された朝食を平らげ、お腹をいっぱいに満たした颯は、弾力感あるソファに座って寛ぐ。リラックスするために少しでも両目を瞑ると心地が良くて寝落ちしてしまいそうだ。


「どうした? もしかして眠いのか? 」


 遥希が颯の隣に腰を下ろす。


 ソファに座るだけでなく、遥希は颯の身体にぴったりと密着する。


 豊満で形の整った2つの胸やモチモチした柔らかい色白の腕が、颯の身体に交わるように触れる。


 この遥希との身体の触れ合いで、颯は女性特有の身体的な魅力と柔らかさを知覚する。何度か触れ合った経験は有るが、未だ慣れずに颯の身体全体には重い緊張感が走ってしまう。


「う、うん。お腹いっぱいで身体が満足しちゃって。身体がポカポカしたように温かくて眠たいんだ」


「そうか。じゃあ1つ提案だが。私の太ももを借りて寝るか? 自分で言うのも何だが寝心地は決して悪くないと思うぞ」


 ジーンズのショートパンツからはみ出るように露になる色白の太ももを両手で軽くタップする遥希。敢えて両手で太ももに触れることで颯の視線を無意識に誘導する。


「え。それってつまり」


「膝まくらって奴だな」


 少し恥ずかしそうに両頬を赤く染める遥希。


「どうだ? 眠い時の膝まくらの提案は悪くないと思うが」


 下から軽く見上げるように上目遣いで颯に尋ねる遥希。遥希は足が長いため座高は低く、座ると自然と颯よりも背丈が低い。


「う…」


 遥希の上目遣いに魅力を覚えつつ、颯の両目は自然と遥希の太ももに向く。柔らかく反発性の有りそうな乳白色の筋肉と脂肪の塊。シミやブツブツなども一切存在しない。


 そのせいで遥希の提案が非常に魅力的に感じる。不純な行動かもしれないが太ももから全く目が離せない。まさに遥希の太ももに釘付けであった。


「遠慮しなくていいぞ。それに瑞貴も愛海も今は1階に居ない。だから…。周りを気にする必要もない。心地よい膝まくらの中断も有り得ない。どうだ? 私に1度だけ身を委ねてみないか? 」


「確かに。それは…そうかもしれないけど」


 瑞貴と愛海の姿を確認するために、ソファに座ったまま1階のリビング全体に目を行き届ける颯。遥希の言う通り瑞貴と愛海の姿は見当たらない。この場には颯と遥希しか存在しない。


「じゃ、じゃあ。お言葉に甘えようかな」


 内面から湧き出る欲望に屈し、太ももを両目で注視したまま、颯は遥希の提案を心から受け入れる。身体と心は遥希の膝まくらを強く望んでいた。いち早く膝まくらの感触を味わいたい。この欲望が脳の全体にぶわっと拡がる。


「素直で宜しい。いいぞ。いつでもおいで」


 颯の望みに応えるように、遥希は美しい乳白色の太ももを再び両手で軽くタップする。歓迎ムードを颯に分かりやすく伝えるように。


「そ、それじゃあ。…お邪魔します」


 初めての同級生の異性の膝まくらに内心で強い緊張感を抱く颯。顔にも緊張感がはっきりと表れ、表情は硬い。


 ただあっさりと欲望に屈し、美しい形の整った遥希の太ももに向けて頭を中心に移動する颯。徐々に颯の顔と太ももの距離が縮まる。


 ポフンッ。


 颯の後頭部が遥希の太ももに優しく着地する。颯の頭が載った遥希の太ももがトランポリンのように上下に軽く揺れる。


「ようこそ。私の太ももへ」


 両頬を軽く赤く染めながら、好意的に颯を迎い入れる遥希。


「はぁぁ~~。やわらか~~」


 思わず心の声が口から漏れる颯。それほど遥希の太ももの感触は心地良かった。


 後頭部越しでも伝わるサラサラの肌に、フワフワの柔らかい餅のような弾力。


 最高のリラックス感を味わえる人工的まくらだ。


「やばい。このままだと眠気に負けちゃうかも」


 遥希のゼリーのような膝まくらの柔らかさと言葉に出来ない抱擁感で先ほどよりも強い眠気が颯の身体と心を包み込む。どんどん両目の瞼が鉄の重りのように重くなる。抵抗しようにも力が強すぎて勝負にならない。


「いいよ。私の太ももでぐっすり眠って。お腹いっぱいで颯自身が眠たいと思うから。我慢する必要は無い。ゆっくり寝ていいぞ」


 まるで自身の子供を可愛がる母親のように、遥希は颯の頭を軽く撫でる。その撫で撫でが颯の内面から睡眠欲をさらに呼び起こす。両目の瞼の大部分は閉じた状態になる。


「…もう。限界かも…」


 元々身体に有った眠気と遥希の頭撫で撫でが合わさり、颯の両目は限界を迎え、完全に閉じ切ってしまう。


「ふふっ。お休みなさい。ゆっくりな」


 颯の瞼が全て閉じ切ったことを確認し、遥希は頭の撫で撫でを止める。


「はぁぁ~。やっと洗濯物干すのが終わった~」


「結構多かったね。この人数が同じ家に住んでるわけだから当たり前かもしれないけど」


 一方、ほぼ同時タイミングで、瑞貴と愛海が階段を介して2階から1階へ降りて来る。会話の内容から2階のベランダに洗濯物を干し終えた所だろう。


「ちょっと悪いが、声のボリュームを落としてくれないか? 颯が今寝たばかりなんだ」


 そんな瑞貴と愛海を颯の眠りを妨げないために、注意する遥希だった。

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