第101話 不満

「ただいま~~」


 颯の自宅から1番アクセスの良い店で食材の調達を済ませた遥希は、自身の巣に戻るような口ぶりとトーンで玄関に上がる。住み始めて未だ1日も経ってない。にも関わらず住み慣れたファミリーのような振る舞いを見せる遥希。


 し~~~ん。


 他人に同意を求めても反応が無い場合に生まれる寂しい音が耳に強くキーンッと響き渡る形で玄関全体に流れる。


「…颯からのおかえりを期待してたんだけどな…」


 仲の良い友達から意図的な無視を受けた学生のような寂しい表情で玄関の自身の靴を揃える遥希。


 足の装備するアイテムの右足と左足の踵をズレることなく合わせる。


 用を終えるとリビングと玄関の境界線を引いて開ける。リビングに向かう道が自然と開ける。


「何か懐かしいな~。幼稚園生の頃にお母さんにサッカーボールおにぎりを作って貰った記憶が有るよ」


「愛海も幼稚園の頃に同じようなおにぎりを弁当として持って来ていた男子を何度も見たし」


 複数人で会話を交わす机に向かい合って座る颯と愛海の有様が遥希の瞳を捕まえる。颯太の右手には団子サイズのサッカーボール模様をしたおにぎりが有る。

 

 気のせいかもしれないが。遥希と瑞貴が自宅を出発する前よりも颯と愛海の距離が縮まっているように見える。


「な、な、な。愛海は何をしているんだ! もう颯に朝食を振舞っているのか…」


 2人の中で形成した雰囲気を壊して割って入るように、遥希は暫く閉じていた口を開く。


 遥希の喉から出た音に気づき、颯と愛海は意識する場所を移す。音にした方向に視線を向ける。自然と遥希に注目が集まる。


「うん。そうだし。別に3人で一斉に朝ご飯を出すルールなんて無かったし。ルール違反じゃないよね? 」


 ふふんっと余裕ある態度を作る愛海。やってやった感が態度に現れる。少なからず、遥希や瑞貴の眼中に無かったことが気に入らなかったのだろう。本人的には予想外のパンチを食らわせ、気分が良いのかもしれない。


「く、確かに。そうだが」


 やられたとばかりに、遥希は悔しそうにギリっと歯を食い縛る。完全に予想外の展開だったのだろう。


「さあさあ。たくさん食べてね!! それこそ、はるっちやみずっちの完成した作品を一口も食べれないくらいにね!! いっぱい作ってるから遠慮せずにね!! 」


 勝利を手繰り寄せるため、多くのサッカーボールおにぎりを規則的に並べた大皿を颯の目の前に敢えて置く愛海。遥希と瑞貴の朝食が出る前に颯の腹を限界まで満たすことが愛海の作戦だろう。


「ちょ、ちょっと。流石に、その量は。それに俺が沢山食べたら朝食対決にならないんじゃ…」


 遥希と瑞貴から振る舞いを受ける後の朝食のことを考慮し、颯はやんわりと拒否感を示す。ここで食べすぎて評価を出来なければ問題だ。愛海のだけ食べるのは平等性にも欠ける。


「そ、そんなの。あんまりだ~~」


 普段は決して見せない情けない子供のような声を上げながら、遥希はリビングから逃げるように1階と2階の架け橋を駆け上る。ドタドタと騒がしい音を立てながら2段ずつ飛ばして登る。


 数秒で颯と愛海の視界から遥希は消える。


「ちょ、ちょっと待ってよ! 八雲さん!! 」

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