第100話 調達
「え!? いきなりすぎない? 」
食材を冷気で保管する機械を雑に閉め、遥希は颯の真横を通過する。そのまま靴を履く場所に移動する。
「遥希ちゃんが言うなら間違いなさそうだね。うちも調理に必要な材料を買いに行く」
リレーで先頭を追い掛けるランナーのように遥希と同じ場所に移動する瑞貴。
「本当に行くの? まだ時計の針が10を回ってないからスーパーは開いてないと思うけど」
家族が気楽に寛ぐ部屋と靴を履くスペースの境界を開き、颯は外出の準備を行う買い出し予定の美少女達に声を掛ける。
「食材を調達できる建物なら何処でも良い」
「うちもそうだよ。颯君の胸とお腹のハートを掴むためだもん。うちの1番美味しい作品を食べて貰いたいもん」
2人は自身の足にアイテムを履くと、颯に手を振ってから自宅のドアから外出する。
止める理由も浮かばず、颯は買い出しに向かう2人を黙って見届ける。数秒経った後、その場に滞在しても意味ないため玄関から元のリビングに戻る。
一方、メインで調理をするスペースでは学校に必ず1人いるような陰キャのようにポツンッと佇み、片手で操作可能なコンパクトパソコンを指で滑らかにスイスイと触る愛海の姿だけが残る。
「え~っと。宮城さんは2人と同じように買い出しに行かないの? 八雲さんが言うには冷蔵庫に食材は少ないみたいだけど」
授業で教員の板書に意識を集中する真面目な学生のようにスマートフォンのスクリーンを注視する愛海。スマートフォンを操作する仕草から役に立つ貴重な知識の探索をしている感じだ。
「愛海が普通に戦っても、はるっちやみずっちには絶対に勝てないから。敢えて違う方法で勝負するし。ある食材を使って調理する」
有益となる道標をインターネットで見つけたのか。一旦、ガラケーから遥かに進化を遂げた携帯の電源を閉じる。
そして、遥希とは大きく異なり、苦手な虫を勇気を持って触る女子のように、なぜか恐る恐る冷蔵庫を開ける愛海。
自分ではない人物の自宅の冷蔵庫を扱うため、少なからずハートが神経質になっているだろうか。
そんな初心者のような動きをする愛海を不思議と見守る颯。なんだか愛海の労力の集大成が出来上がる成り行きを見届けたくなった。
一方、颯の自宅から外出した遥希と瑞貴は毎日24時間いつでも空く店に足を運んでいた。
料理の得意な遥希は主婦のように買い物カゴに次々と食材を入れる。完全に買い物に慣れている人間の動きだ。どの食材がコンビニのどのコーナーに陳列されているかも知識を貯蓄する臓器に記憶済みな動きだ。物事は順調に進んでいる様子が見て取れる。
瑞貴の方は。
「う〜〜ん。おにぎりか〜。コンビニで売られている食材にも限りがあるし。絶対に颯君の好みの具も入ると思うし。おにぎりがお題って結構難しいかも」
スーパーに比べて食材が少ないコンビニでの買い物に苦戦が見られる。中々買い物カゴに食材が入らない。
「ふふっ。どうやらお悩み中のようだな瑞貴。私は既に颯に振舞うための製作品も、そのための素材も揃えたぞ。後は会計を済ませるだけだ」
余裕ある笑みを崩さずに、遥希は店内の取引が行われる場所に向かう。特に客は並んで無かったため、すぐに受付の従業員からのサービスを受ける。
食材などの商品と等価交換できる紙やコインをレジの機械に投入し、会計をスムーズに終える。
「じゃあな瑞貴。お先にな。早く準備を済ませないと後れを取るぞ」
軽く手を振りながら、未だにカゴに食材の集まらない瑞貴に別れの言葉を告げる。もう買った気でいる口調だった。
「ま、負けないんだから。絶対に挽回する」
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