第90話 自宅には
「本日はありがとうございました。これ日給です」
時刻は18時。空は夕日が射し、薄暗さに支配される。
ティッシュ配りのアルバイトを終えたメンバーが順番に係員から日給を受け取る。メンバーは列を作り、順番に並ぶ。その中に颯達も含まれる。
「ありがとうございます」
4人の中で颯が最後に日給の入った薄い茶封筒を受け取る。遥希達は少し前に全て貰っていた。
日給の詰まった茶封筒を手に持ち、颯は遥希達と合流する。
「よし。全員受け取ったな」
颯が合流すると、遥希は満足そうな顔を浮かべる。そして、瑞貴と愛海と目を合わせてから図ったかのように頷く。
「これ受け取ってくれ」
自身の持つ茶封筒を前に出し、遥希は颯に差し出す。
「うちのも」
「愛海のも」
同じように、瑞貴と愛海も茶封筒を差し出す。
「え、3人とも何言ってるの? それぞれ自分達で稼いだお金だよね? 」
突然の理解不能な遥希達の行動に、戸惑いと疑いを隠せない颯、なぜ自分達の稼いだお金を颯に渡すのか理解できなかった。
「何て言うかな。私達は早く颯と一緒に色々と遊びたいんだ」
うんうん。同調を示すように、瑞貴と愛海は顔を何回も縦に振る。
「そこで早いことお金を集めるためには、私達の稼いだお金も颯に渡そうと事前に渡そうと話し合っていたんだ」
「そうなんだよ。受け取るのは抵抗が有るのは分かるよ颯君」
「そうなんだ。でも悪いよ」
遥希と瑞貴から説明を受けても、颯は未だに受け取る気にはなれない。遥希達が一生懸命に労働して稼いだお金を容易く受け取れなかった。
「別にただではないし。またお金が溜まったら返して貰うし」
揶揄うような口調で、愛海が補足を加える。
「それは同感だ。別にただであげるとは言ってないしな」
「うちもね。利子とか付けて返して貰おうかな~」
遥希も瑞貴も冗談ぽく笑う。
「うんありがとう。このお金は絶対に返すよ」
しかし、根が真面目な颯は素直に受け取ってしまったようだ。
3人からお金を受け取った後、その場で解散となった。瑞貴は颯と同じ時間を過ごす気満々だったが、遥希達から無理やり引き剥がされた。
遥希達と別れた後、颯は自宅に向かう。自宅から最寄りの駅なため、数分で自宅に到着した。
自宅の鍵を財布から取り出し、鍵穴に刺してから回す。
カチッと音がした事実を確認し、鍵を抜いてからドアを開ける。
『ガタンッ』
しかし、ドアは開かずに施錠したままの状態になっていた。
「あれ? どこかでミスしたかな? 」
不思議に思いながら再びカギを穴に刺し、回してロックを解除する。今度は大丈夫そうだ。
自宅のドアを開け、玄関に足を踏み入れる。
「ただいま~~」
玄関に靴を脱ぎ揃え、ルーティーンの帰りの挨拶をする。いつもは当然のように返事が無い。
「颯ちゃん!! おかえりなさい~~」
元気な顔がリビングから誕生すると、バタバタと激しい音が颯の鼓膜を刺激する
声の主は玄関に姿を現す。
その人物は女性であり、身長は160センチ前半の美人であった。
「え、お母さん? 」
「そうだよ!! お母さんだよ~~。いきなりだけど帰ってきちゃった~~」
颯の顔を間近で認識し、女性は勢いよく嬉しそうに颯を抱きしめた。
大人の女性特有の香水の匂いが仄かに玄関全体に漂った。もちろん颯までも取り囲んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます