第89話 アルバイト場所で

「ティッシュはいかがですか~」


「これいかがですか~~」


 駅前で颯達は他のアルバイトと共にティッシュ配りに従事する。颯達は同じ駅前のエリアでティッシュ配りをすることになった。なのだが。

  

「おいおい。あの子達めちゃくちゃ可愛くね? 」


「何で駅前に絶世の美女が3人も居るんだよ。これは幻か」

  

「レベル高いよな~。普段はあんな美少女なんか見れないよ。どこに住んでるんだろ」


 駅前という場所も影響しているが、遥希達は大いに目立っている。いやかなり目立っている。駅前を通る男子達は全て遥希達に目を奪われていた。カップルであろうと関係なかった。それほど遥希達は輝いていた。


 そのため、少しでも関わりたいと思った男子達が進んで遥希達の下に足を運び、積極的にティッシュを受け取る現象が多く起こった。だから、遥希達の保有するティ

ッシュの在庫は見る見る内に消えて行く。したがって、何度もティッシュの補充が繰り返される。


 一方、颯の配るティッシュは一向に減っていない。減る気配がしなかった。


 ほとんどの人々が遥希、瑞貴、愛海に流れており、颯に近づく者など1人も居なかった。積極的にティッシュを配りに動いても、何度も拒否された。そのため、一向に颯の持つティッシュが減らない。


「あぁ~。全然減らないや」


 諦めたように大袈裟にため息を吐く颯。


「ねぇねぇ。こんな面白くないティッシュ配りなんか辞めない? 」


「そうだよ。俺達と今からでも遊ぼうよ!! 」

   

「それか最悪あとからでもいいからさ。君みたいな可愛い子と遊びたいんだよ! 」


 同じような考えを持った集団が揃いも揃って遥希達をナンパする。個々の集団が似たように遥希、瑞貴、愛海をそれぞれ取り囲み遊びに誘う。ラブコメで良く見る光景だ。


(ちょっ。流石にそれは無しだろ。仕事中だぞ)


 ティッシュ配りのアルバイトを中断し、颯は男達を止めに入ろうと試みる。

  

「ごめんねアルバイト中だから」

  

「すまない仕事中だ」

  

「ちょっと愛海は今忙しくて」


 3人は一斉にやんわりと拒否する。全員が仕事に集中したい姿勢を見せる。態度の様相から3人共ナンパの対応には慣れている感じだ。

  

「そんなこと言わずにさ~。一緒に遊ぼうよ~。アルバイトなんか放棄しちゃってさ」


 1回断られただけでは諦めず、遥希達の通路を邪魔するように立ち塞がる個々の男達。言動から自分に自信を持っている感じだ。しつこい感じは否めない。

  

「悪いが」「悪いね」「悪いけど」


 うんざりした仕草を見せた後、遥希達3人の言葉が同時に被り、立ち塞がる男達の間をスルスルと通過する。完全に彼らなど眼中に無い。そして、各々がポツンッとティッシュを持つ颯の下に足を運ぶ。

  

「「「1人の男しか興味ないから!!! 」」」


 なぜか男達がしたように颯を取り囲み、嫌でも理解させるように気持ちを主張する3人。


「「「「「「「「「…」」」」」」」」」


 突然の遥希達の行動に驚きを隠せないナンパ男達。ナンパ男達を含んだ多くの視線が遥希達の取り囲む颯に自然と集中する。

  

「え…。ちょっとそれは。どういうこと? 」


 突然の遥希達の発言と多くの視線に戸惑う颯。少なからず平静を失う。

  

「ここは何かと面倒だから。場所変えよ颯君」


 そんな颯の胸中など関係なく、瑞貴は颯の手を引き、場所変更を持ち掛ける。

  

「おい!! 抜け駆けする気だろ」

  

「バレバレだし」

  

「バレちゃったみたい!! やばいよ颯君はやく行こ!! 」

  

「ちょ!! 前も言ったけど、強引だって!!! 」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る