第88話 一緒に集合場所まで

 自宅最寄りのコンビニで購入したパンを瑞貴と食し、外出用の私服に着替え、ティッシュ配りのアルバイト実施場所であり、遥希と愛海との集合場所である駅前へ颯は向かう。


 駅は颯の自宅の最寄り駅であり、5分もしないうちに到着した。


 駅前には学生以外にも多品種の人間の姿が有った。


「あ! 颯だ!! お~~い!! 」


 颯を発見した途端に、一変して表情が明るくなった遥希が、存在をアピールするように手を振る。遥希の視界に隣の瑞貴は全く映っていない。


 愛海も遥希を真似するように軽く手を振る。


 一方、瑞貴も自身の存在をアピールし返すように遥希に手を振る。まるで颯の隣に相応しいのは自分だと証明するかのように。

  

「むっ」


 颯と一緒に集合場所に現れた瑞貴をようやく認識し、遥希は不満そうに眉をひそめる。明らかに苛立ちを隠し切れていない。


「どうして瑞貴が颯と一緒に居るんだ? 別に家が近い訳じゃないだろ? 」


 当たり前だが野放しにせず、威嚇するように瑞貴を凝視し、颯と一緒に集合場所へ訪れた理由を尋ねる遥希。


 これは一悶着ありそうな空気だ。

  

「颯君とうちの家が近くないかな? 良く知ってるね遥希ちゃん」


 明らかに少し小馬鹿にした口調で、幸せそうな笑顔を絶やさずに、瑞貴は遥希を褒める。まるで自身の優位性を示すかのように。


 その瑞貴の態度が気に食わなかったのか。前髪で隠れた艶のある額に青筋を浮かべる遥希。かなりお怒りの様子だ。態度や顔にも表れる。

  

「とぼけるなよ。私の聞いていることに答えろ。もちろん正直にだぞ」


 冷淡な口調で命令し、遥希は鋭い眼光で瑞貴に睨みを利かせる。

  

「割って入る感じだけど。愛海も気になってるから」


 遥希と瑞貴に対抗するように、愛海も参戦する。

  

「ふぅ~~ん。2人とも気になるんだ。そりゃそうだよね~~」

  

 バチバチバチバチ。

 

 3者間の視線がバチバチとぶつかり合う。凄まじく火花が散る。

  

「実はね!! うち颯君の家でお泊りしちゃった☆ しかも!! 同級生では初めてのお泊りの相手だったって!!! 」


 緊迫した空気を破るように口を開き、堂々と自慢話を語る瑞貴。


「な!? 」 「は!? 」


 瑞貴のカミングアウトに、遥希と愛海は驚きを隠せない。目を大きく開き、開いた口が塞がらない。


「そ・れ・に!! ねぇ、あれで呼んでよ颯君」


 ちょんちょんっと隣に立つ颯の腕を自身の指でタップする瑞貴。


「あれで? 何それ? 呼ぶって」


 瑞貴の抽象的な言葉で颯は答えを発見できない。


「もぅ!! 朝に呼び合ったでしょ!! また不貞腐れるよ? 」


 分かりやすく不満そうに頬を膨らませる瑞貴。

  

「げっ。それは勘弁だよ。


 嫌そうに目を細め、颯は瑞貴を名前呼びする。まだ口調からは緊張が読み取れ

る。


「「!? 」」


 さらなる衝撃が襲ったのか。これでもかと両目を大きく見開く遥希と愛海。どうやら聞き漏らさなかったようだ。

  

「呼んでくれてありがとう~~。嬉しい~~」


 唖然とする遥希と愛海の反応を無視し、照れたような笑みを溢しながら、瑞貴は颯の腕に勢い良く抱きつく。

  

「ちょっ。いきなりだし、距離も近いよ。ここ駅前だからさ」


 周囲を見渡しながら、颯は小さな声で瑞貴をたしなめる。周囲からは嫉妬や痛い視線を多数浴びる。


「いいじゃん別に!! 」


 周囲の視線など気にした素振りも見せない瑞貴。完全に外界の情報を遮断している。


「あ!! もうアルバイトの受付が始まってるよ!! 一緒に行こうよ~」


 無言を貫く遥希と愛海を視界の他所に、瑞貴は颯の腕を引き受付場所へ誘導を試みる。

   

「ちょっ。自分で歩けるから。強引に引っ張らないでよ! 」

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