第85話 2人きりで——

「ここが颯君の部屋かぁ~」


 興味津々な顔で、瑞貴は颯の部屋を隅々まで目を通す。


 颯の部屋には勉強机、ベッドの他にも大きな本棚が有る。本棚にはラノベ、推理小説、文学小説など多種多様な小説が置いてある。


「うわぁ~~。たくさんの本が有るね。颯君が本好きなんだね。初めて知ったよ! 」


 本棚に並ぶ小説を眺めながら、瑞貴は興奮気味な口調になる。颯の部屋に存在する

物すべてに興味を示しているようだ。

  

「うん。本自体が好きなんだ」

  

「すごいね。うちも本が好きだけど、ここまで読まないよ」

 

 本棚に並ぶ本を指差しながら、瑞貴は颯の読書量を褒める。

 

「…大したこと無いよ。読んでない本も多いし」


 他者からの褒め言葉に慣れていないため、照れ隠しするように瑞貴から視線を逸

らす颯。実に分かりやすい態度だ。


「ふふっ。そういう所も可愛い。本当に。うちの心を上手く掴むんだから」


 思わず薄い笑みを溢すと、瑞貴は颯にゆっくりと接近する。

 

「ねぇねぇ颯君」


 後方から優しく颯の肩に触れる瑞貴。


「うん? どうしたの? 」


 颯が振り返った瞬間。


「えい!! 」


 瑞貴が両手で颯の肩を押す。


 衝撃を受けた颯は、ベッドに倒れる形となる。柔らかい布団が颯の背中を受け止め

る。


「な、なにするの!? 」


 突然の出来事に少なからず動揺が隠せない颯。一瞬、何をされたのか理解できなか

った。


「もう我慢できなくなっちゃった。颯君…ずるいよ」


 ベッドに倒れた颯の身体に載る瑞貴。

 

「こういうのも初めてだよね? うち以外の女の子刃部屋に入れたことないよね? 大丈夫。…うちも…初めてだから」


 緊張した顔で、瑞貴は顔をほんのりと赤く染める。

  

「そ、そんなの…」


 言葉を紡ぐ途中で、颯の声は消える。瑞貴の顔が自身の顔にゼロ距離で接近したからだ。


「ふふっ。この距離ドキドキするね。遥希ちゃんと、この顔の距離で話したこと無いでしょ? ね、無いでしょ? 」


「そ、それは。そうだけど」


 瑞貴の有無言わせない迫力に負け、颯は素直に認める。


「ふふっ。素直で宜しい♪」


 颯の顔の直近で非常に嬉しそうに満面の笑みを浮かべる瑞貴。ご満悦のようだ。


「今日は初めてを楽しまない? 楽しくてドキドキするベッドタイム。…をね? 」


 颯の返事を待たずに上から覆いかぶさる形で、瑞貴は颯に抱きつく。瑞貴の纏わる香りが鼻腔を擽り、サラサラの髪は頬を刺激する。当たり前だが、瑞貴の豊満な双丘は颯の鍛えた胸に当たる。いや、押し付けられている。


「もう1度だけ繰り返し言うけど。偶然当たってるんじゃなくて、意図的に当ててるから」


 颯の耳元で艶めかしい吐息を漏らしながら、瑞貴は優しい声色で囁いた。

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