第71話 攻撃


「ちっ。まだ出て来ないのかよ遅いな」


廊下を進み、2年5組の教室前で待機する藤田。おそらく教室から退出する遥希に声を掛けるつもりなのだろう。しつこい奴である。プライドが許さないのだろう。


「おい。お前か? 我らがアイドルの八雲さんにしつこく構ってる奴っていうのは」


 両手をポケットに突っ込みながら佇む藤田の後ろから、怒りを帯びた静かな男子の声が生まれる。


「うん? 何だい? 」


 後方から突然生まれた声に素早く反応し、ポケットに手を突っ込んだまま藤田は振り返る。藤田の目にガタイの優れた3人の男子の姿が映る。しかし、藤田には動じた様子は見せない。


「どうせ八雲さんを待ってるのだろう。悪いが接触させる訳にはいかない。話を聞いた限り、八雲さんはお前と関わるのを嫌がってるらしい。それならば、我らが防ぐ」


 3人の中の男子の1人が淡々と藤田に告げる。身長は男の方が高いため、上から目線だ。


「何を言ってるんだい? 僕は目的を達成するために何度も何度も彼女に接触するよ。あそこまで塩対応を受けて引き下がるなんて冗談じゃない! 」


「そうか。なら仕方ないな。それなら。違う場所に移動させるしかないな」


 男子の1人が藤田の右腕を掴む。


「っ。僕に勝手に触るな! 」


 反射的に男子に捕まれた右腕を振り払う藤田。そのせいで、男子の掴んだ手は藤田の腕から離れる形となる。


「流石に抵抗してくるか。では強引に行くか。お前達、力を貸してくれ」

「「了解!! 」」


 残りの2人の男子が呼び掛けに返事をし、藤田を自由を奪う。


「っ。触るな! 僕に触るな~~。君達が僕の自由を奪う権利はない!! 」


 ジタバタと暴れて、藤田は抵抗を試みる。だが、2対1では圧倒的に不利な上、残りの2人は藤田よりも体格が良かった。そのため、抵抗は無駄に終わってしまう。


「よし。ご苦労。それでは適当な場所に連れて行くぞ」


 満足そうな表情を浮かべ、男子の1人が先頭を進む。


「「了解! 」」


 後を追うように、残りの2人が藤田を引きずりながら進む。藤田の足は地面を擦りながら、引きずられる。


「離せ! 離せ~~。僕の目的の邪魔をするな~~~」


 学校の廊下にも関わらず、藤田は大きな声で叫ぶ。だが、相変わらず身体の自由を奪われたままだ。


 そのタイミングを狙っていたかのように、遥希が2年5組の教室から姿を現す。


 ゆっくりとした足取りで、遥希は颯のクラスである2年6組に向かう。


 偶然か、遥希と男子2人に引きずられる藤田の目が合う。


 藤田の有様を認識し、遥希はバカにしたような笑みを浮かべた。


 当然、その笑みは藤田の目にしっかり映る。


「クソ~。やられた~~。あの女~~」

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