第70話 怒り
「そろそろ教えてくれないか? 颯とさっきの奴の間で何があった? 」
正門から学校を抜け、颯の右腕をギュッとホールドする遥希が、気になる内容を尋ねる。
「うん。遥希ちゃんと一緒で、うちも気になってたんだよね。颯君から教えて欲しい」
遥希と同じように颯の左腕をホールドする瑞貴も、同じ気持ちだったようだ。
「……」
2人の言葉に素早く答えられず、颯は黙ったまま俯く。地面を見つめたまま、歩を進める。
この2人に話しても大丈夫だろうか。失望されないだろうか。格好悪くて弱い男だと思われないだろうか。
これらの不安と疑問が颯の脳内を支配する。全てをマイナスに考えてしまう。
「大丈夫だ。どんな内容でも私は受け止める。だから安心しろ颯」
「…八雲さん…」
遥希の勇気づける言葉を耳にし、颯は無意識に顔を上げる。そして、遥希に視線を向ける。颯の目に、まるで安心させるためだけに作った遥希の薄く微笑む顔が映る。
「あ! うちが言おうとしたことを!! 颯君。うちも遥希ちゃんと一緒だからね。
どんな話を聞いても颯君のこと悪く思わないから」
遥希に抵抗するように、颯の左腕を抱き締める瑞貴。そのおかげで、瑞貴の豊満な胸が颯の左腕に押し寄せる。
「中谷さん…」
颯は遥希と瑞貴の顔を交互に見る。不思議と2人の顔を見るだけで、心が楽になった。
「2人共。…ありがとう」
お礼を述べた後、颯は藤田から受けたことを全て話した。
仲の良かった親友との関係を壊されたこと、その親友に好き放題に暴力を振るわれたこと。話してしまえば、つらつらと流れるように言葉が出た。
「———ということなんだけど」
全てを出し切った時には、心が軽くなっていた。今まで周囲に話さなかったことが愚かだったかを示唆するように。
「「……」」
颯の過去の話を遮らずに最後まで、遥希と瑞貴は耳を傾けていた。
「…許せん」「許せない…」
遥希と瑞貴は小さな声でボソッと呟いた。
「え? 」
遥希と瑞貴の声が聞き取れず、颯は思わず間抜けな声を漏らす。
「その親友もさっきの奴も絶対に許せん。私の颯を悲しい目に遭わせるなんて」
「同感だね。うちの颯君にトラウマを植え付けたなんて。許されることじゃないね」
ギリギリッギリギリッギリギリッ。
多大なる怒りを感じているためか。遥希と瑞貴は、それぞれ颯の腕を強く抱き締める。
「ちょっ!? 2人共、力入れすぎだよ!! 痛い! 痛いから~!! 」
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