第69話 邪魔な存在(だから消えろ)
「よし。チャイムも鳴ったことだし、今日の帰りのホームルームはここまで」
チャイムが鳴り響く中、2年6組の担任は簡単な言葉で締め、教室を出て行く。
チャイムの音が消えると、教室中が弾けるように騒がしくなる。クラスメイト達の雑談と笑い声で溢れる。
そんな騒がしい教室で、颯は黙々と帰りの支度に取り組む。支度をしながら、帰り道で藤田と遭遇したくないと思う。胸中で出会わないように願う。やはり颯の中で藤田に対する恐怖心は変わらない。中学時代の経験がそうさせている。
ちなみに、教室に聖羅の姿は無い。昼休みの間に体調を崩し、保健室で寝込んでいるらしい。
「おいっす颯! 一緒に帰らないか!! 」
「颯君~~。会いたかった~~」
他クラスに所属する遥希と瑞貴が、教室の後ろの戸から入室し、颯の席まで歩み寄る。
「う、うん。ちょっと待ってね。もう帰りの支度は終わるから」
頭から藤田のことが抜けないまま、遥希と瑞貴を長く待たせる訳にもいかないので、颯は素早く帰りの支度を済ませる。筆記用具、教科書、ノートなどの入った学生カバンの鍵を閉めて、支度は完了した。
「準備は出来たみたいだな」
「ほら! 行こう颯君!! 」
遥希と瑞貴の嬉しそうな表情を視界に収めながら、颯は自分の席から立ち上がる。
「それでは失礼するぞ? 」
「あ! 遥希ちゃん早い! うちだってするもんね」
片手に学生カバンを持ちながら、空いた腕を使って、遥希と瑞貴は颯の両腕に抱きつく。
颯は右手に学生カバンを持っていたため、それが遥希の身体に引っ掛かるように当たる。
「うん? ちょっと抱きつきずらいな。悪いが、学生カバンを背負ってくれないかな? その間は我慢して離れるから。瑞貴も少しだけ協力してくれないか? 」
「え~~。せっかく颯君を独占できるチャンスなのにな~~」
遥希の要求を拒否するように、瑞貴は颯の腕を先ほどよりも強く抱き締める。
「むっ。…颯を独占しやがって。いいから。離れろ」
強く嫉妬したのか。それとも羨ましかったのか。
素直に言うことを聞かない瑞貴を、遥希は強引に颯から引き剥がす。
「いやぁん。遥希ちゃんのいじわる~」
無理やり颯から引き離され、瑞貴は不満そうに頬を膨らませ、目を細める、視線は遥希だけに向く。
その間、颯は素早く学生カバンを背中に背負う。
「瑞貴が協力してくれないのが悪いだろ。それに…颯を1人で独占なんて許せなかったからな」
頬を少し赤く染め、最後は消え入りそうな声で、遥希は再び颯の腕に抱きつき、ホールドした。遥希の腕の力は先ほどよりも強かった。
「へぇ~~。何しれっと遥希ちゃんが颯を独占してるのかな? 」
満面の笑み(目は全然笑ってない)を浮かべながら、瑞貴は遥希に問う。
「ふん! さっき瑞貴が颯を独占したからな。次は私の番なのは当然だろう? 」
特に悪びれず、遥希は颯に身を寄せる。
「むぅ。それは違うと思うけど」
頬を膨らませたまま対抗するように、瑞貴は颯の空いた腕に抱きつく。
「ほぉ何が違うんだ? 」
バチバチバチバチ。
遥希と瑞貴の視線がぶつかり、火花が散る。
「ちょっと。2人とも。そろそろ帰らない? このままだと埒が明かないよ」
自身を間に衝突する遥希と瑞貴に、颯は恐る恐る呼び掛ける。
言葉に速攻で反応し、睨み合うように衝突する遥希と瑞貴が、颯の顔に視線を集める。
「颯が、そう言うなら」
「颯君が言うなら」
遥希と瑞貴は渋々といった形で颯の言葉に納得する。
「そろそろ行かない? 」
返事を待たずに、颯が歩を進める。
颯に付いていくように、遥希と瑞貴は前進する。
3人で一緒に2年6組の教室を退出する。
廊下に出ると、2年6組の教室の前に狙ったかのように、藤田の姿があった。
颯は藤田の姿をいち早く認識すると、颯はびくっと身体を震わせる。藤田に対して恐怖を覚える。
しかし、颯の変化に俊敏に気づき、安心させるように、遥希と瑞貴が両腕を優しく包み込む。
「大丈夫だ颯。怖くないからな」
「颯君。うちが居るから。安心してね」
颯にだけ聞こえる声で、遥希と瑞貴の2人は颯の心をケアする言葉を掛ける。
一方、藤田は遥希を発見し、以前と同じように声を掛けようと試みる。
「前に伝えたよな? 関わって来るなと。それと颯にも関わるなと。後1つ追加な。2度と颯の前に顔を見せるな」
「ごめんね~。うち達忙しいから。話し掛けて来るのは遠慮してくれないかな? 」
最早、藤田に喋る隙を与えずに、遥希と瑞貴は適当にあしらう。そのまま守るように颯の腕を強くホールドした状態で、廊下を進む。まるで藤田を置き去りにするように。
「ちょ!? 待ちなよ!! まだ何も言ってないじゃないか! 」
遠くなる颯達の背中に、藤田は大きな声で制止を試みる。
「いい。あんな奴は無視しとけばいいから」
「その通りだよ」
「う、うん」
しかし、その努力も虚しく、遥希と瑞貴は颯に無視するように促す。彼女達も相手にする気は一切無かった。
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