第68話 塩対応

「ちょ、ちょっと待ってくれない? さ、流石に冷たすぎないかな? 」


 想定外の対応だったのだろう。1言だけ言葉を交わした後、勝手に話を終わらせて自身の横を通り過ぎた遥希に、藤田は動揺した口調で声を掛ける。


「…何だ? 私は既に話を終了したつもりなのだが」


 進めていた足を止め、鬱陶しそうに眉をひそめ、遥希はゆっくり振り返る。


「な!? …勝手に話を終わらせないでくれるかな? まだ続きがあるからさ」


 一瞬だけ驚いた顔を浮かべたが、すぐに消し去り作り慣れた笑みを浮かべ、藤田は牽制を狙いとした言葉を紡ぐ。少なからずムカついたのかもしれない。


「そうなのか? 悪いが続きを聞くつもりは全く無い。私自身が聞きたくないからな」


 反省した様子や謝罪の言葉など一切無く、遥希は隠すことなく自身の気持ちを伝える。遠慮は全然無い。


「あ、あまりにも君は失礼過ぎないかな? 勝手に話を終わらせたり、聞きたくないだとか。初めて喋る相手に取る態度ではないと思うけど。僕が間違ったこと言ってるかな? 」


 額に青筋を作りながらも、心の中で暴走する感情を隠すように張り付いた笑顔を維持したまま、藤田は遥希に疑問を投げる。遥希に無礼さを気付かせるための行動だろう。


「そんなこと知るか。それに私も普通の人間に対してだったら絶対にしない。お前に見せるような態度はな。もう少しマシな対応を意識的に心掛けるし、実際に取るだろう」


 躊躇った感じも無く、平然とした口調で、遥希は返答する。


「それは意味深な言葉だね。なぜ僕にだけなんだい? 聞かせて欲しいな〜」


 気に入らないのか。藤田は間一髪で理由を追求する。


「理由か? 面倒だが教えてやるか。お前が転校して来た初日から颯の様子がおかしい。もちろん悪い意味でな。だから気に入らないし、1言も会話すらしたくない。腹が立つからな」


 藤田を睨み付けるように目を細めながら、遥希は求められた理由を説明する。


「もうこれでいいか? 早く颯と一緒にいたいからな。ここで話は強制的に終了だ。もう関わってくるなよ? もちろん颯にもだぞ? 颯以外の男子に構うなら好きにしろ。嫌がらせも勝手にしてろ」


 最後にそう吐き捨てると、藤田からの応答を待たずに視線を切り、遥希は2年6組の教室に入った。


 だが返答は無かった。


 遥希の言葉はあまりにも衝撃的だったのか。それとも

現実を認められないのか。


 それらの真意は定かではないが、藤田は口を半開きにしたまま呆然としていた。


 そんな藤田の視界には、颯の席に駆け寄る遥希の姿が映った。


 颯の元には既に瑞貴の姿も有った。当然、その光景も藤田の目に入ったに違いない。

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