第66話 関係の破壊
次の日。
石井は普段通り登校した。最近では当たり前になっている朝のホームルームの開始5分前に登校する。
いつも通り1時間目の授業を受ける。授業は石井の得意な数学だった。
ただ聖羅からの連絡は無い。毎日途切れずに合流場所を伝えていたメッセージが届かない。
それが影響したのか。石井は授業中からソワソワしていた。
1時間目の授業が終了し、すぐに教科書やノートを机に仕舞い、教室を退出する。聖羅に会うためだ。石井には聖羅が必要不可欠な存在だった。
そんな石井を、遥希達は怪訝な目で追っていた。だが、興味は無いため、素早く視界から外した。
廊下を早歩きで進み、2年6組の教室前に到着する。
石井は1番乗りで抜けたが、2年6組の教室前には先客が1人だけ居た。
その人物は眼鏡を掛けた男子生徒だった。
どうやら男子生徒は人を待っている様子だった。
「やあ聖羅ちゃん! 会いに来たよ 」
整った顔立ちの眼鏡男子は、絵になる笑顔を作り、聖羅に声を掛ける。
「藤田君…。どうしたの? いきなり」
ぎこちない作り笑いを浮かべながら、聖羅は応答する。どうやら教室の外から藤田に呼ばれたようだ。
「新しく出来た彼女と話がしたくてね。ダメかな? 」
「それは…構わないけど」
2人の会話を耳にし、石井の目がこれでもかと大きく見開く。信じられない物を見ているかのようだ。
次第に顔をわなわなと震わせ、怒りを抑えるように歯を食い縛る。だが、緊張の糸が切れたかのように、石井は藤田の胸ぐらを掴んでいた。
「おい! どういうことだお前!! 何でお前の彼女が聖羅なんだよ!! 」
廊下に大きな声が響く。
教室内から顔を覗く生徒達の視線が、石井と藤田に集まる。
「おっと。元カレ君の登場か」
力強く胸ぐらを掴まれた状態にも関わらず、取り乱さずに、藤田は舐めた笑みを浮かべる。
「てめぇ」
藤田の態度が気に入らなかったのだろう。鋭い目で藤田を睨め付けながら、石井は腕により力を込める。そのせいで、藤田の掴まれたカッターシャツの胸元に多くの皺が寄る。
「…和久君」
不幸に遭ったヒロインのように胸の前で拳を握りながら、聖羅は石井の名前を小さな声で口にする。
「どうやら知らないみたいだね。じゃあ、教えてあげなよ聖羅ちゃん。この目の前の男に現実をね」
胸ぐらを掴めてるのにも関わらず、余裕な顔で石井から意識を切り、藤田は聖羅に呼び掛ける。聖羅本人から石井に伝えさせる狙いだ。
「…本当にごめんね。……和久君」
申し訳なさそうに、聖羅は謝る。ただ頭は下げずに涙も流さない。
「どういうことだよ聖羅。なんで謝るんだよ」
藤田の胸ぐらを掴んだまま、石井は聖羅に視線を集中する。藤田など眼中に無い。
「伝え忘れてたけど、あたしは藤田君と付き合うことにしたの。もう嫌だったの。周囲から痛い視線と悪口を受けるのは。藤田君は教えてくれたの。今の彼氏と別れて、藤田君と付き合えば、少しでも学校生活が楽になることをね」
「お、おい。前言ってたよな? 2人でなら乗り越えられるって。あの言葉は嘘だったのか? 」
「ううん。嘘じゃ無いよ。あの時は本当にそう思ってた。でも現実を知っちゃった。不可能なことを知っちゃったから。だからごめんね。あたし達、今日で別れよ? 」
とうとう聖羅はとどめを刺す別れの言葉を発する。しかも居心地が悪そうに俯いており、真剣な眼差しを石井に向けてすらいない。
「なっ…。なっ……」
石井にとっては衝撃的な言葉だったのだろう。ぽろっと藤田の胸ぐらから石井の手が外れる。
「だってさ。これが現実だよ。さぁ行こうよ聖羅ちゃん! 」
カッターシャツの胸ぐらを辺りに出来た皺を軽く直し、藤田は踵を返す。藤田と石井の間で距離が空く。
「…うん」
呆然とする石井を1度だけ確認し、聖羅は藤田の後を追う。そして、身を預けるように藤田の腕に抱きついた。
一方、石井は最悪の光景に直面し、全く動けずに立ち止まっていた。現実を絶望した目で力無く見つめていた。
「ふふっ。まさかここまで上手く行くとはな」
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