第63話 謎の少年

 学校は終了し、颯は1人で帰路に就く。


 途中までは遥希と瑞貴と共に帰宅していたが、帰る道は最後まで一緒ではない。そのため、途中で別れる形となった。


 遥希と瑞貴と帰ってる間も、颯は他の物事に心を奪われていた。藤田のことが頭から離れず、遥希と瑞貴のほとんどの話が耳に入らなかった。聞いてるフリだけをした。何を話したかも全然覚えていない。


「はぁ~~。これからどうしよ…」


 俯き地面を見つめながら、颯は弱々しく呟く。


 今後、藤田の牙が颯や愛海に向くのは簡単に予想できた。近い間に必ず訪れる。その未来を想像するだけで、絶望的に気分が落ちる。


 藤田の存在が邪魔であり、心の底から消えて欲しいと願ってしまう。


 最近では、学校を転校したいとも思ってしまっている。そうすれば、藤田と関わる機会は無くなる。それだけで、どれだけ幸せだろうか。


「本当に。俺ってどうすればいいんだろう…」


 神様にアドバイスを求めるように、颯は空を見上げる。


 水色の空に真っ白な雲が泳ぐように身を置く。当然、神様からアドバイスなど貰えるはずもない。颯の目には無言の空だけが映る。


「本当にいいの? 前みたいに良いようにやられて終わるだけだよ? また大切な関係を失うよ」


 全く聞き覚えの無い男子の声が颯の耳に届く。一瞬だけだが、何処から声を掛けてきたのかも分からなかった。


 声のした方向が後ろだと認識し、颯は慌てて振り返る。知らない人間からの声掛けに少なからず動揺する。


 視線を向けた先には、颯と同じ背丈と髪色をした男子の姿があった。


 しかし目の色は違い、颯よりも目がパッチリしており大きい。


 服装はパーカーに水色のジーパンを着用する。


 颯にとって、人生で1度も目にしたことが無い人物だった。だが、不思議と何処となく親近感が湧いた。なぜか波長も合いそうな気がした。理由は分からない。


「ようやく気付いたね。それにしても、いいの? また同じような経験をして、辛い過去を作っちゃうよ。しかも同じ相手のせいで」


「…それはそうかもしれない。それに、何で君がそんなこと知ってるの? 俺達は初対面だよね? 」


 名前も知らない男子の言い分を認めつつ、颯は率直な疑問を口にする。先ほどから独り言で思わずペラペラ呟いた記憶もない。


「それは…。言えないかな。…ごめんね。でも、これだけが言えるよ。このまま黙って行動しなければ、必ず前と同じ目に遭う。そうすれば、中学時代と同じように、また辛い思いをすることになるよ」


 目の前の男子は正体も名前も明かさない。明かす気配すら無い。それにも関わらず、颯を批判するようにアドバイスをする。


 胸中の中では、颯はイライラを覚える。名前の知らない人間が、全てを知ったようにアドバイスをしてくる。その現実が不気味であり、多少なりとも不安も感じた。


「俺が出来るのはここまでだよ。後は自分次第だよ。


「え!? 」


 突然、目の前の正体不明の男子から自身の名前を呼ばれ、颯は驚きから大きく目を見開く。なぜ自分の名前を知ってるのか、意味が分からなかった。


 一方、そんな颯を気にした様子も無く、正体不明の男子は踵を返す。そのまま振り返らず歩を進めて颯から離れて行く。


「ちょ!? ちょっと待って!! なんで俺の名前を知ってるの!! 教えてくれない!! 」


 外にも関わらず、大きな声で正体不明の男子の背中に叫ぶ颯。


「……」


 だが、正体不明の男子は完全に無視を決め込み、返答は一切無かった。


 情けなく、ズンズン前進した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る