第57話 夢

 時は戻り中学時代。颯が中学2年生の頃。


 その頃、颯には親友と呼べる男子の同級生がいた。


 身長は今の颯と変わらず、160センチぐらいであった。その上、決してイケメンではないが、男女に好まれる万人受けする顔を持っていた。


 小学1年生からの関係であり、小学生時代は6年間すべて同じクラスだった。


 中学に入学してからは1度クラスが離れた。


 しかし、2年生になってからは再び同じクラスになった。当時は2人共お互いにすごく喜んだものだ。


 同じクラスになってから、4月から6月までは仲良く過ごした。学校内では常に一緒に居た。お互いに暇なときは放課後も遊ぶことも多々あった。お互いの自宅を行き来する中でもあった。


 そんな良い関係が崩れたのは7月。同じクラスになって3ヶ月が経過した頃だ。


 親友と呼べる男子の同級生の颯と関わる頻度が極端に減った。


 話し掛けたり遊びに誘っても適当な理由を付けて断られた。


 その代わりにクラスの中心いわゆる陽キャの集団と、親友は関わるようになった。颯など全く相手にしてくれなかった。


 それだけならまだ良かった。


 陽キャ達の命令に従い、教員の居ないタイミングを狙い教室内で、親友は颯に暴力を振るい始めた。当時の颯はガリガリで細く、力も同級生と比べて平均以下であった。


 そのため、抵抗しても全く歯が立たなかった。力の差は歴然であり、親友から一方的な暴力を受ける羽目になった。親友は結構な力を持っていた。


 当然、誰も助けてくれず、クラスメイト達は見てみぬフリをした。


「いいね! いいね!! もっとやっていいぞ!! 」


「そら!! もう1発!! 」


 親友を鼓舞するように、ご機嫌な様子で陽キャ達は笑っていた。楽しそうに見ていた陽キャ達の顔は全て覚えている。脳内に焼き付いている。


 その中でも他と比べて記憶に残る顔がある。


 その顔の持ち主は陽キャ集団の中でもリーダー的存在だった。


 眼鏡を掛けており知的な印象を与えるイケメンだった。実際に勉強もでき、成績も学年でトップだった。


 そのメガネを掛けたリーダーのイケメンは常に薄い笑みを浮かべながら、颯が痛め付けられる光景を静かに見ていた。まるで関係の無い傍観者を演じるように。


 話は飛び、1年後の3年生になってから知った話だが、親友に颯に暴力を振るように命令を出したのはリーダー格のイケメンだった。


 理由や狙いは分からなかったが、まるで必要ない玩具を捨てるように、本人から伝えられた。


 その時のメガネのイケメンの顔は颯にとって決して忘れられない。今でも思い出すと。


「うわぁ〜〜〜〜」


 メガネのイケメンの表情がはっきり映ったところで、颯は大きな声で叫びながら目を覚ました。無意識に勢いよくベッドから上体を起こした。


 ガバッと掛布団が動く。


「はぁはぁ。……夢…か……」


 身体中に大汗を掻きながら、颯は安心したようにボソッと呟く。夢であったことを少なからず幸運だと感じる。


「…はぁはぁ。またか。やっぱり1ヶ月に何回かは、このような夢をどうしても見てしまう。絶対に見たくもないのに。どうして……」


 顔から汗が垂れる。その汗は掛布団にぽたっと落ちる。


「身体が覚えてるんだろう。思い出しかも無い嫌な記憶を。だから夢に出てくるんだ。忘れるために今度は絶対に負けないために身体を鍛えたのに。嫌なほど追い込んだのに。……それは無駄だったのかな…」


 努力が全て無駄だと感じる。現実を呪ってしまう。


「本当に。どうにかしてほしい」


 悲しいオーラを漂わせ、びしょびしょのパジャマを着たまま、颯はベッドから立ち上がった。そして、自分の部屋の床に両足を着ける。


「服着替えないと。気持ち悪くて仕方ないよ」


 誰も居ない自宅で独り言を呟きながら、颯は自分の部屋を後にした。

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