【本編完結済】18歳の誕生日、幼馴染への愛おしさが爆発した僕は世界最強の生物に覚醒してしまった

四百四十五郎

本編

イドル再起編

絶縁追放と自殺未遂とプロポーズ

「イドル、うちの家には成人した存在意義の無い役立たずを養う余裕はない。ゴミ虫人間はさっさとこの家を出ていけ。オマエとオレは今日から他人だ」


「はい、わかりました……」


「まあ、オマエを養ったり結婚してくれるような女なんていないから、なるべく人のいないところで野垂れ死にしろよな」


 養父で鑑定士のロンリネスさんに言われたとおり、僕は大事な物だけ持って王都の実家を出た。


 


 僕は生まれつき劣った人間だった。

 

 僕は心も身体も人より弱く、魔力もため込めなかった。


 普通の人間は成人するまでに身体の中に魔力を約1万マナため込めるようになる。


 でも、僕の身体は成人年齢である18歳を迎えても1マナもため込むことができなかった。


 だから、他の人みたいに魔術を使うことができない。


 ロンリネスさんいわく、この体質の人間は騎士団員にならない限り死ぬまで他人に搾取されるしかないという。

 

 そして、僕は騎士団員になるチャンスを全てものにできなかった。

 

「じゃあ、もう僕は死んだほうがいいよね」


 僕は王都の大きな道を無意識のうちに西へと歩みを進めつつ卑屈な表情でつぶやいた。


 僕は自分が劣等人間なこと自体はそこまで辛くなかった。


 自分の欠点のせいで他の人間が不快になったり迷惑をかけてしまうことがそれ以上に辛かったのだ。

 

 唯一の趣味であった小説の執筆も一週間前の新人賞結果発表で予選落ちして以来、書けなくなってしまった。


 自分は世の中にとって害でしかないのだろう


 きっと自分のいない世界は今より数段素晴らしい世界だ。


 だったら今日で人生を終わりにしよう。




 気づいたら僕は王都の外に出ていて、目の前には高い塔がある廃墟があった。


 この塔の上で頭から落ちることができれば脳がつぶれて蘇生の見込みなく死ねるだろう。


 僕は塔の一番上まで階段を使って上り、足を踏み外した。


 その時、まだやり残していたことに気付いた。


「あっ……まだ、マテリアにさよならをいっていなかった……」


 マテリアは僕の同年代の幼馴染で僕の何倍もすごい人だ。


 彼女は人類でたった五人しかいない体内魔力保有量が100万マナを超えた人間で、金属魔術の研究家として熱心に活動している。


 正直、僕なんかが幼馴染なのが申し訳ないくらいだ。


 僕は自分の好きなことに真剣に取り組める一途なマテリアのことが大好きだった。


 もし叶うのであれば、結婚してずっと一緒に暮らしたいくらい大好きだった。


 でも、そんなことが叶わないし許されないのもわかっている。


 それでも、せめて死ぬ前にさよならだけは言いたかった。


 僕の身体が落ちようとしている。


 もう止まらない。


 でも、言いたかった。


 別れの言葉を言いたかった。


 まだ、死にたくない。


 


 バサッ!


 突然、僕の両腕が翼に変わった。


「これは……魔術?」


 魔術は使う人間の理想を具現化する力だとマテリアから聞いたことがある。


 僕の腕は僕の願いを叶えるために『魔術』によって翼になったのだろうか。


 色んな事を考えているうちに僕の身体は無事に地上に着陸した。


 そして、僕は気付いた。


 僕の身体に今まで感じたことのない膨大で溢れそうなほどの『力』が駆け巡っていることを。


「これがみんなが言っていた『魔力』ってやつなのかな……この力があれば『普通の人間』になれるのかな……」


 僕は『普通の人間』に憧れていた。


 人並みに魔力をため込むことができて、人並みに心が強くて、人並みに身体も強い存在に憧れていた。


 今からでも頑張れば人並みの魔力保有量を持つことはできるかもしれない。


 でも、もう心が疲れて努力する気力もなくなってしまった。


 やっぱり、この辺で人生を打ち切りにしよう。


「じゃあ、マテリアの家にでも行こうかな。……戻れ!戻れ!」


 僕が腕を『普通の人間と同じ状態に戻れ』と強く思いながら振ると、両腕がいつもの頼りない細腕に戻ってくれた。


 正直、このまま戻らなかったらマテリアにめちゃくちゃ困惑されて最期の話どころじゃなかったので戻ってくれたのはありがたい。




 マテリアは今から数年前に本人が自分で稼いだお金のみで建てた王都の西端にある一軒家で一人暮らしをしている。


 実家から追い出された僕なんかとは大違いだ。


 僕が幼馴染に別れを告げるべく王都の方向へ足を向けた時、足と前腕にだけ鎧を着た状態の見知った人影がありえない勢いで僕のもとへ駆け抜けてきた。


 「マテリア……」


 自作の足を速くする脚部装甲を装備しているであろう幼馴染は圧倒的な速さで僕のすぐそばまでたどり着いて、真剣な顔で僕を見つめてきた。


 都合が良かった。


 今ここで別れの言葉を言って自分から絶交して、それからどこかで命を絶ち切ろう。


「マテリア、今までありがとう。こんなゴミクズみたいな僕と友達になってくれて。僕これ以上みんなに迷惑かけないように、今から死んでくる」


「さようなら、大好きだったよ」

 

 そう言って僕は後ろを向いて再び両腕を翼にして、一回もやったことないのに翼で飛び立とうとした。


 いつまでも幼馴染と一緒にいると死ぬのが辛くて怖くなってしまう。


ガチャン!!


 飛び立とうとした直前、身体が金属製の何かによって掴まれる。


 次の瞬間


「うっ、うえええ!!うっうっ!!うっうわあああああああああああん!!」


 今まで聞いたことのないマテリアの号泣する声が僕の心を揺るがした。


 僕は後ろを振り返る。


 そこには僕を前腕装甲から生やした鉄の触手で拘束しつつ、今まで見たことがないくらいに泣いてるマテリアがいた。


「ううっ、やだよ……!!私もキミのこと大好きだよ!!キミはゴミクズなんかじゃないよ……!!キミはかけがえのない存在なんだよ!!一緒に、一緒に生きていたいよ!!」


「……ダメだよマテリア!キミは僕なんかとは違ってすごく優秀で素晴らしい人間なんだ!僕なんかよりもっといい相手がいるよ!!だから……僕のことはもう忘れてほしいんだ」


 僕は涙ながらにマテリアを自分自身から突き放そうとする。


 その方がマテリアのためになると思ったからだ。


「絶対にいやだ!キミじゃないとやだ!やだ!やだっ!私、キミと一緒に暮らしたい!キミと一緒にこれからの人生を歩みたい!結婚するならキミがいい!」


 マテリアが声が枯れるほどの大声で僕に反論する。


 だめだよ……


 僕はキミを幸せになんてできないのに……


 再び逃走を試みようと思ったとき、マテリアが僕への金属触手による拘束を解いて僕を思い切り抱きしめた。


「私にとってキミが死んじゃった世界は生きる意味のない空虚な地獄なんだよ……キミが死んじゃったら後追いで死んじゃうかも……」


 その一言で僕はようやく気付いた。


 マテリアにとって、僕が生きていることより僕が死ぬことの方が比べ物にならないほど辛いということを。

 



 僕は自分の愚かさで幼馴染を泣かせてしまったことを申し訳なく思い、マテリアに抱きしめてもらいながら泣きじゃくった。


「ごめんね……僕、またキミに迷惑かけちゃった。本当は僕もキミと一緒に生きたい。キミと一緒に日々を過ごしたい……キミと結婚したい」


「じゃあさ……結婚しよ。それで、私と一緒に暮らそう。そしたらさ、きっとキミもキミ自身の価値がわかると思うんだ」


「結婚……」


 結婚なんて僕には無縁だと思っていた。


 だって、僕には人に愛される価値なんてないのだから。


 でも、マテリアは僕に結婚に値するだけの価値を見つけてくれた。


 僕はそのことがとっても嬉しかった。


「マテリア、僕を選んでくれて、僕を見つけてくれてありがとう。結婚しよう」


 マテリアが僕をより強く抱きしめる。

 

 僕もマテリアを強く抱きしめた。

 

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