私達はどこから来たのか?

白米よりご飯派。いや、やっぱり味噌汁派

第1話 「神の使徒」

 ユズはいつも朝の七時に目を覚ます。

 それは彼がこの仕事についてから一度も破ったことのないルーティンだった。


 彼はベッドを整え、テレビでニュースを流した。

 そして、ニュースを聞きながらコーヒーを淹れる。

 コーヒーの匂いで部屋が満たされ、朝のどんよりとした重い空気が洗われていく気がした。

 ユズはマグカップにコーヒーを注ぎ、それを持ってベランダのガーデンチェアに座る。


 彼は朝にベランダでコーヒーを飲むのが好きだった。

 一戸建ての狭いベランダだが、その空間は彼にとって心地よさを与えてくれる。

 壁のせいで周りの風景を見ることはできない(住宅街のつまらない風景だが)。

 だから、見えるのは空だけだった。


 ベランダに座りながら空を見てコーヒーを飲む。

 そして、たまにニュースに耳を傾ける。

 ユズにとってそれは朝に行う儀式のようなものだった。

 やらなければわだかまりが残る。


 そのとき、携帯が振動した。

 ユズはため息をついてからポケットから携帯を取り出し、画面を見つめる。


『東雲アユミ』


 画面にはそう表示されていた。


 ユズはため息をつき、コーヒーを一気に呷る。

 一気に飲むコーヒーほどまずい飲み物はないと彼は思った。


「なんだ」とユズは電話に出て言った。

「遅い! もっと早くでなさいよ!」とアユミは言った。

「うるさいなあ。休日のこんな朝早くに電話してくる君が悪い」

「私だって休日にあんたに電話なんてしたくないわよ。だけど、私たちがやってるのはそんなこと言える仕事じゃないでしょ。いつでも出られるようにしなさいよ」

「ただでさえ仕事中ずっと君といるんだ。休日くらい一人にさせてくれ」

「なによそれ、私といるのが嫌ってこと?」

「違う意味に聞こえたか?」


 ドガン、とデカい音が電話の向こうから聞こえた。


「な、なんの音?」とユズは尋ねた。

「なんでもないわよ。とにかく、さっさと来なさい。本当に緊急事態なの」

「……分かったよ。それで、なにが起きたの?」


 ユズは大人しく従うことにした。

 これ以上、逆らったら今度会ったときにアユミになにされるか分からない。


「……呼び出された」とアユミは小さな声で言った。

「呼び出された?」とユズは繰り返す。

「そう。上から呼び出しをくらった」


 ユズは立ち上がり、部屋に戻った。

 彼は明らかに動揺していた。

 リビングをぐるぐると意味もなく歩き回る。


「呼び出しって言ったって、なんでそんないきなり……」

「分からない。とにかく、どうやら緊急のことらしいの」

「緊急? てことは僕らがなにかやらかしたってわけではないんだね?」とユズは言った。

「僕らってなによ。なんで、私もそこに含まれてるわけ? いつも面倒事をもってくるのはあなたでしょう」とアユミはふてくされたように言う。

「確かにそうかもしれない」


 アユミはそれを聞くと大きなため息をついた。

 ドスンと軽い音がする。

 おそらく、ベッドに横になったのだろう。


「なぜ呼ばれるか分からないけど、今までとは違って少し面倒くさいみたいよ」

 

 ユズは新しいコーヒーを淹れようとやかんで水を沸かそうとする。


「はあ、勘弁してもらいたいよ、ホントに。それで、なにが起きたか分かってるの」

「あっちに行くまで教えてくれるわけないでしょ。アホ」とアユミは言った。

「確かにそうだ」

「……だから、想像なんだけど」とアユミは前置きをする。

「むかし、先輩から聞いたことがあるの。原因は分からないんだけど、ごくまれに異なる世界の人が違う世界に来てしまうことがあるんだって」

「そんなことあり得るのか?」とユズはやかんを熱する火を見つめながら言った。

「むかし実際に起きた」

「だとしたら、僕らは相当面倒くさいことに巻き込まれているんじゃないか?」

「そうじゃないことを祈るわ」とアユミは言った。


 ユズは上にはしっかりしてもらいたいと思った。

 不祥事が立て続けに起きていたら、この世界の人々が自分の世界に疑問を持ってしまう。

 それはにとっては一番回避しなければならないことだった。


 この世界(地球)の真実を知るのは、ユズとアユミのただ二人きり。

 この世界に住み誰もが、この世界が大きな鳥籠だということに気づいていない。


 彼らにとってこの世界を創った者は神。

 だとしたら二人は、神の使徒とでも言おうか。

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私達はどこから来たのか? 白米よりご飯派。いや、やっぱり味噌汁派 @BBuussoonn

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