side M age:36
アハト様とアルベルトと魔導師長4人での話し合いが終わった後、別室で待っていたメルヴィの家族にアルベルトと共に面会した。
今のメルヴィの状態は、王族の秘密に関わる心残りがあって王城をさまよっていたミルカ・クレメラの幽霊が、その心残りを解決するまでメルヴィの身体を借りている、ということにして、アルベルトが上手に説明してくれた。
『ウフフ、あのお母様が泣いてる』
メルヴィは表には出れないものの、暗闇の中で外の音と私の心の声だけ聞こえていて、私にはメルヴィの声が聞こえている状態。メルヴィは私に身体を乗っ取られてしまったというのに焦ることもなく、メルヴィを心配して思わず泣いてしまったマリカの泣き声を聞き喜んでいた。
私が負い目を感じないように、焦りを見せないよう演じてくれてたのだと思う。
その日は、とりあえず王城の客室に泊まることになった。思えば、12歳の誕生日から”眠る”という行為もしていなかったのだと気づき、寝れるのか不安になりながら横になった私は24年ぶりに眠りについた。
そして、気づいたら私はメルヴィとだけ会話できる暗闇の中にいて、メルヴィが表に出ていた。それ以降、メルヴィが何度寝て起きても私が表に出ることはなかった。
メルヴィはアロマー侯爵家に帰り、侍女を引退していたタイナが会いに来て、タイナの声を聞くことが出来た。タイナとカリーナへ感謝の気持ちを伝えてもらうこともできた。マリカからヒルッカ伯母様の話もたくさん聞いた。メルヴィとたくさん話をした。
メルヴィを通して情報を伝えること1週間、アハト様とアルベルトは数々の証拠を抑えてヴァルトと助手を捕らえることに成功した。
ヴァルト達の処罰は、身体の時を止める魔法をかけた状態で24年牢屋へ入れることに決まった。ヴァルトは自身で開発した魔道具を使い、私にかけた身体の時を止める魔法を少ない魔力で24年間も維持していたらしいのだが、皮肉にもその魔道具を使うことで、ヴァルトに魔法をかけ続けたまま24年間放置できるそうだ。
認めたくはないのだが、ヴァルトによる人体実験によって、医療や人体学、魔道具、薬学など様々な分野が飛躍的に進歩するだろう。証拠として差し押さえた研究記録を解き明かしていくには、不明点などがあった時にヴァルトに聞くという選択肢も残るこの処罰は合理的だと思う。
ヴァルトはあの暗闇の中でも気にせず研究のことを考え続けるような気もするし、研究が出来ないことですぐに発狂するような気もする。
側室一家殺人未遂で幽閉されていたリューリ様だが、ヴァルトの研究室から過去の余罪も判明し、毒杯での処刑が決まった。50人の乳児が材料と知っていて初聖水拝領の前に魔力量増強剤を使ったこと、違法な不妊治療薬を使っていたこと、ヴィルヘルムの生物学上の母である貴族令嬢の拉致に関わっていたことがわかったそうだ。
リューリ様がヴィルヘルムの遺体をヴァルトに提供していたことは、余罪を説明してくれている中でも言われなかった。ヴィルヘルムの遺体は研究室に名札付きで堂々と置いあったから、気づかないことはありえない。
透明な防腐液と共に瓶詰めされたヴィルヘルムを見てしまったアハト様の気持ちを考えると心が痛む。
ヴァルトを捕らえたらどうせ分かることだし、メルヴィにこんな残酷なことを教えたくないために、私はヴィルヘルムの遺体のことは事前に伝えていなかったのだ。アハト様なら、ヴィルヘルムも、他にも実験体としてあの研究室にいた人たちも、皆、ちゃんとお墓に埋葬してくれるだろう。
新たな不妊治療を構想するために必要だからヴィルヘルムの遺体をよこせとヴァルトに言われた時の、光のない暗い目をしたリューリ様を思い出し、かつての初聖水拝領の時の輝かしい姿との落差に思いを馳せる。女神教では現世で悪事を積み重ねた者は、死後は地獄で罪を償うのだと言われている。リューリ様には伯父と一緒に地獄で罪を償ってほしい。
そして、今、私の身体にかかっている時を止める魔法を解くために皆が集まっている。
ヴァルトが使用していた魔法を維持している魔道具を、魔導師長が壊してくれるのだ。時を止められる前の時点で死を予感していた私の身体は、長年のヴァルトの実験により更にボロボロになっている。魔法を解いたらすぐに死ねるだろう。
メルヴィ、アルベルト、リクハイド、ミルカを抱いたパウラ様、マリカ、エーミル、メルヴィの父、タイナ、カリーナ、そしてアハト様が見守ってくれている中、魔導師長が魔道具を壊した。
「ミルカ……どうか、安らかにお眠りください」
アハト殿下の声が聞こえたきがした。
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後書き
とても理解しづらい話だったと思います。
途中で投げ出さず最後まで読んでいただいたこと、本当ありがとうございました。
本来はここで完結でした。
改めて自分で読み直し、ミルカの救いがなさ過ぎたなと気になり、「救いなし」タグを増やすか、救いを書き足すか迷い、次の11話目を追加しました。
11話目は蛇足に近いので、ここで読むのをやめていただいても大丈夫です。
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