side Ahto age:37

リューリが隣国の間者を使い側室のパウラと子供達を殺そうとした事件から1ヶ月が経った。事件後10日間意識がなかったパウラも、医師の治療とリクハイドの癒し魔法のおかげで、後遺症もなく公務に復帰するまでに回復した。泣いたり落ち込んだりと不安定だったミルカとリクハイドの2人も、パウラが起き上がれるようになったことで安心したのか今では落ち着いている。アルベルトの足の傷も後遺症なく完治し学園にも復帰した。


そして、ついにメルヴィ嬢にかけられた呪いを吸収する魔道具が完成し、これから身体の時を止めている魔法を解く。


やっとメルヴィ嬢が目を覚ます。時間が許す限り医師塔のメルヴィ嬢の枕元へ通っていたアルベルトの情緒もこれで安定するだろう。周囲にはいつもどおりの平静を装っていたアルベルトだが、隠れて焦燥感に苛まれているようで心配だった。家族以外を受け付けずに泣いていたミルカのように分かりやすければ声もかけやすいが、優しいあの子は私たちに心配をかけないようにと隠しているのが分かるために、見守ることしかできなかった。


メルヴィ嬢はかつての私の婚約者ミルカの従姪。茶色い髪色と琥珀のような瞳も同じで、血の繋がりがあるからかあどけない顔立ちもどこかミルカに似ているメルヴィ嬢を見かけるたびに、ミルカに対して不誠実で無情だったかつての自分を思い出す。


幼い頃はベッドから出れないほど病弱だった私は、乳母が枕元で読みきかせてくれるお伽話が大好きで、その御伽噺の王子様とお姫様のようにお互いを唯一の伴侶として愛し合う両親に憧れていた。病弱な私1人しか子供がいないにも関わらず側室がいない父の誠実さを尊敬し、自分もそうなりたいと願っていた。


奇跡的に健康になり、それまでの遅れを取り戻すように勉学や剣術に励んでいた頃、8歳の誕生日に婚約することが決まった。いつのまにか決められていた見知らぬ婚約者を愛せるのかと不安になっていた私に、母は、この婚約は暫定だから時を見てふさわしい婚約者を選定し直すのだと言い放った。


父のように誠実に婚約者を愛したいと思っている私に、母は、婚約者を捨てるという外道を強要した。両親に裏切られたような気がして胸がえぐられたように痛かった。自分はもう清廉潔白には生きられないのだと絶望した。


そんなやり切れない思いの象徴が婚約者のミルカだった。


いずれ婚約を解消するから。仲良くすることを母に禁じられたから。ミルカの体調不良は仮病だと医師が言ったから。リューリがミルカを気にかけてくれているから。そんな理由を付けて向き合う事なく長年放置していた彼女は、久しぶりに顔を見た時には棺の中に収まっていた。ミルカの葬儀中、当時の学友で現在の魔導師長ネストリが零した「こんな小さい棺があるんだ」という言葉が忘れられない。


5年も婚約していたのに、思い出せるのは、私の前で咳をしないように背中を丸めて必死に息を止めている健気で哀れな姿ばかりなのだと、パウラに打ち明けたことがある。それを覚えていたのか、パウラは生まれた娘にミルカと名付けてはどうかと言ってくれた。ミルカの名を呼び愛でることで罪悪感を昇華できるのではないかと思い、パウラの提案に甘えて娘をミルカと名付けたが、それがまさかリューリを刺激するなどとは思ってもいなかった。


身体の時をとめられ、医師塔の病室で横たわっているメルヴィ嬢は、まるで最後に見た棺の中のミルカのようで、私は密かに、何かを間違えているのに分からない時のような、つかみどころのない不安を感じる。


メルヴィ嬢に時を止める魔法をかけたネストリとアルベルトを中心に、魔導師達の中でも実力者達がメルヴィ嬢を囲んでいる。呪いを吸収する魔道具を発動するのはアルベルトだ。その役割は自分がやると言って聞かず、ネストリに頼み込み、毎日メルヴィ嬢の枕元で魔法の発動時間を短縮する訓練をしていた。その努力で身につけた実力で、アルベルトは魔道具発動の役割を手にした。


強要したわけでもないのに、かつて私が憧れた清廉潔白で誠実な王子として成長しているアルベルトが眩しくて、誇らしい。アルベルトが大人になってもずっとその生き方を続けられるように、できるだけの手助けをしていこうと思う。


魔術師達から少し距離を開け、私とアロマー侯爵夫妻とメルヴィの兄エーミルがいる。自分も参加したいと言って来たリクハイドは、国の重鎮を一箇所に集めるために防犯対策を強化するよりもメルヴィ嬢を目覚めさせることに集中したいのだと説明するとすんなりと諦めてくれた。あの事件は甘えん坊で幼かったリクハイドを大人にしてしまったようだ。本来物分かりがよくなるのは良い事なのだが、もっとゆっくりでよかったのにとやるせない。


ネストリ達の準備が終わったようだ。


「アルベルト殿下、私がこの右手を下ろした瞬間です。なるべく早くですが、早すぎて魔法を解く前に発動するのもダメです。右手が動き出すのと同時に魔道具を発動してください」


ネストリの最終確認に真剣な眼差しのアルベルトがしっかりと頷く。アロマー侯爵一家も周りの魔導師達も言葉を発することなく、息遣いの音だけが響く緊張の中、ネストリとアルベルトが所定の位置についた。


ネストリが右手を下ろした瞬間、アルベルトが手に持つ壺型魔道具が発動し、メルヴィ嬢の身体から出てきた黒い靄を吸い込んでいく。時を止める魔法を解いたネストリはすぐにメルヴィ嬢に向かって別の魔法をかけなおし、周りの魔導師達が補助している。これは呪いが進行した身体を癒す魔法で、成功するかは時間との勝負だと聞いている。


黒い靄が見えなくなってからしばらく、アルベルトもネストリも周囲も皆、固唾を呑んでメルヴィ嬢を見ている。誰かが息を飲む音が響いたその時、メルヴィ嬢の長い睫毛が揺れた。ゆっくりと瞼が上がり、蜜を固めたような綺麗なオレンジ色の瞳がなぜか私を射抜いた。


「メルヴィ!」


アルベルトの声で周囲の緊張が解け、アルベルトを先頭にアロマー侯爵一家がメルヴィ嬢に駆け寄る。その間もメルヴィ嬢は言葉を発することなく、なぜか目を見開いたまま自分の手を見て狼狽えている。呪いの吸収は成功したはずなのに、どこかおかしい様子を見せるメルヴィ嬢に不安を覚えるが、私と同じように思ったのだろうネストリが声を掛けた。


「メルヴィ様、身体に不具合などがありますか?」

「痛いところもないし、不具合を感じるところはありません。でも、ごめんなさい。私はメルヴィじゃないんです。どうしてこんなことになってしまったの。さっきから試しているけどメルヴィと交換できないの」


その返答に皆困惑を隠せない。一番近くにいたアルベルトが素早く我に返り、メルヴィ嬢の顔を覗き込み問いかける。


「メルヴィじゃないのなら、あなたは誰ですか?」

「アルベルト殿下、メルヴィじゃなくてごめんなさい。……私はミルカ・クレメラです」


メルヴィ嬢がアルベルトや兄のエーミルを揶揄うために演技しているとしても、私の元婚約者で幼くして亡くなったミルカを騙るような無礼をするような子ではないはず。


「ごめんなさい。止まってた時間が流れ出した時、メルヴィじゃなくて私が表に出てきてしまったみたいです。でも、メルヴィは表に出れないけれど今も心の中で会話できているので、私が消えることができたら元に戻れるはずです」


そう言って申し訳なさそうにしているメルヴィ嬢は、我慢できずに咳き込んでしまった時のかつてのミルカの姿とダブって見えた。動揺し、どう答えるべきなのかと固まる周囲を他所に、メルヴィ嬢、いや、ミルカと言った方がいいのだろうか?ミルカは私に話しかけてきた。


「アハト様、この状況を含めて全てお話しします。それは先王陛下が隠し、アハト様が聞き出そうとしていたこともです。どうか人払いをお願いします」


父が私に隠していたこと。


リューリが産んだ念願の第一子ヴィルヘルムは、言葉を覚えることもハイハイすることもなく、1歳を迎える前に先天的な疾患で亡くなった。そんなヴィルヘルムの死で王城が重苦しい空気に包まれていた頃、母が体調を崩し離宮で治療することになり、クレメラ侯爵が急病で亡くなった。


そのクレメラ侯爵の葬儀の日の晩、父から、母とクレメラ侯爵についての真相を知らされた。


「長年国内で多発していた平民の失踪事件は、スヴェント伯爵家とヘルコ男爵家によるものだった。現王妃と王太子妃、2人の生家の犯罪を公にすることは出来ないため、クレメラ侯爵は表向きには病死とし毒杯を与えた。アイリスは年末に毒杯を与える。他の首謀者達も秘密裏に処刑し、スヴェント伯爵家、ヘルコ男爵家、クレメラ侯爵家は徐々に力を削ぎ落とし没落させることが決まった」


スヴェント伯爵家は母の実家、ヘルコ男爵家はリューリの父方の祖母の家で、クレメラ侯爵はヘルコ男爵でもあった。


ヘルコ男爵家が孤児を中心に平民を拉致し、スヴェント伯爵家が人身販売や人体を必要とする違法薬を作成販売する。長年、両家で役割を分担して利益を分け合っていた。母は実家の裏稼業を知った上で利用していたし、クレメラ侯爵は拉致を主導している首謀者の1人で、しかもクレメラ侯爵は前クレメラ侯爵一家の3人を馬車の事故に見せかけ殺し、その事故は母の手助けがあったこともわかったそうだ。


そう話す父は、やせ細り頰がこけ今にも倒れそうだった。それまで日に日にやつれていく父の姿を見て、母よりも父の方が離宮で治療した方が良いのではないかと思っていたのだが、そもそも母は治療のために離宮へ行ったのではなかったのだ。


私はその調査や処理に関わらせてもらえず、最初から最後まで蚊帳の外だった。


母とクレメラ侯爵の罪はこれで全部ではないはず。なぜ母は前クレメラ侯爵一家の殺害に手を貸したのか、なぜミルカだけ殺されず私の婚約者となったのか、ミルカの早逝は関係ないのか。そして、なぜ父はこの件だけ私を除け者にして全てを話してくれないのか。


そう父に問いただしたが、父は答えてはくれなかった。愛する妻に長年裏切られていた父は、別人のように憔悴していき、そんな父に強く詰め寄ることも出来ないまま、父は5年前に亡くなってしまった。国王となり過去の記録を確認できる立場になっても、父の隠蔽工作の跡がわかるだけで、疑問が解消されることはなかった。


ミルカが言った隠しごととは、このことなのだろうか。


そうならばアロマー侯爵一家と魔導師達に聞かせる話ではないと判断し、古くからの側近で魔導師長あるネストリ以外の退席を命じた。「先王の隠し事」という言葉を聞いた彼らは、王家の秘密に関わるのだと察し素早く退出していった。


「父上、私にも話を聞かせてください。お願いします」


普段は物分かりがよいアルベルトだけがこの場に残ると言って聞かない。メルヴィ嬢のことが心配なのだろう。ミルカの話の内容もわからないこの段階で12歳のアルベルトは退席させるべきだとわかっていたが、自分が父上に隠し事をされた時の憤りを思い出し、私は思わずアルベルトの同席を許可してしまった。


私とアルベルトとメルヴィ嬢は椅子に座り、ネストリは私の背後に立ち、そしてミルカは語り出した。


12歳の誕生日の前日に王宮医師ヴァロ・ヴァルトに身体の時を止める魔法をかけられたこと、葬儀の後にヴァルトの研究室に運ばれたこと、そこでヴァルトと助手が自分の身体を使い実験をしていたこと、彼らが禁止薬を作り違法な治療を請け負っていると聞こえてきたこと、そして、ヴァルトの研究室に来たクレメラ侯爵との会話と、そこでミルカの身体と魂が離れたこと。


時を止める魔法をかけられた人は、その間も意識があり音を聞くことだけができる。体の感覚もない暗闇に長時間いると、訓練された騎士でさえ心の平衡を失い狂ってしまうという。そのため、時を止める魔法を使った時には、対象者になるべく話しかけ、本や詩の朗読などで、退屈しないように配慮するのが常識だ。ヴァルトはその配慮を無しで、時を止める魔法を何年もかけ続けているのだ。ヴァルトへの抑えられない怒りが湧き上がる。


そして、クレメラ侯爵との会話の内容で、父は私に魔力量増強薬と魔力貯留器官移植のことを隠していたことがわかり、剣で刺されたのではないかと思うくらいの胸の痛みに、胸を押さえうずくまってしまう。


母が王妃になるために殺された50人の乳児達。私を生むために王妃に胎を奪われ亡くなった生物学上の母。私に魔力貯留器官を移植したために亡くなったミルカと子供達。


私はどれだけの命の犠牲の上で生まれここまで生き伸びたのだろう。


私は生き延びたのに、私と同じく魔力貯留器官なしで生まれたヴィルヘルムは死んでしまった。ミルカの葬儀の時に小さいと思った棺が大きく思えるほどに、小さい小さい棺に収まっていたヴィルヘルムを思い出す。


なぜ父が私に隠したのかもわかる。ヴィルヘルムを亡くしたばかりの若い私がこの事実を知ったら、自分が生きていることへの罪の意識に耐えられなかっただろう。今、取り乱すことなく話を聞いていられるのは、パウラやアルベルト達家族がいてくれるおかげだ。


家族の顔を思い浮かべながら背筋を正し起き上がった私を見て、一旦話を止めていたミルカが続きを話し出す。


「その後、伯父への怒りで身体から魂が離れたことで、私は誰にも気づかれないし話しかけることもできない生き霊のようなものになりました。


身体は生きたまま時間を止められているから楽園へは行けないし、なぜか王城から出ることができません。王城を出るとヴァルトの研究室にある身体まで戻ってしまいます。それからは王城内をさまよって、アルベルト殿下やメルヴィ達のことを見て過ごしてました。


それで、呪いを止めるために私と同じ身体の時を止める魔法をかけられたメルヴィが心配になったんです。日が出ている時はアルベルト殿下やリクハイド殿下が話しかけたり、カリーナが本を読んだりしているけど、夜はメルヴィも寝ていると思われて静かにされてしまってて。あの魔法は夜だからって眠ることも出来ないと私は知っていたから、今思うと根拠にもなっていないんですが、同じ魔法がかかっているメルヴィなら私の声が聞こえるかもって思ってメルヴィに話しかけたんです。


気付いたら暗闇の中にメルヴィと共にいました。メルヴィの身体に魂が入ったのだと思います。その後はメルヴィに私の事情を説明して打ち解けて、暗闇の中を2人で楽しく過ごしてました。


メルヴィが魔法を解かれて目覚めたら、私は生き霊に戻るのだろうと安易に考えていたんです。それなのに、私が身体を乗っ取ってしまいました。メルヴィとは今も心の中で会話できています。私が死んで魂が楽園へ行けば、メルヴィは表に出てくるはずです。


ヘルコ男爵家とスヴェント伯爵家の人身販売の捜査の時、先王はヴァルトの関与に気づきませんでした。ヴァルトは自分の犯行をスヴェント伯爵領にいる彼の師匠が行っているように見せかけて捜査対象から外れていたんです。リューリ様に隣国の間者を仲介したのもヴァルトです。それらの証拠が隠されている場所も、隠蔽魔法の解除の仕方も、隠し部屋になっている研究室への入り方も知っています。


お願いします。私を殺してください」


アルベルトもネストリも私も言葉を発することが出来なかった。


6歳で家族の命と魔力貯留器官を奪われ、健康も寿命も失って、11歳で身体の時を止められて、騎士でも狂うと言われている暗闇の中で10年もの時を過ごし、その後は誰にも気づかれることのない生き霊として10年以上の時を過ごし、死を願っている。


そんなミルカにかける言葉がわからないのだ。


白いアガパンサスを受け取ればよかった。母上の言葉なんて無視すればよかった。心の問題などというヴァルトの診察結果を疑うべきだった。父上が隠していることを暴いてもっと厳しく調査すればよかった。そもそも、


「私が生まれていなければよかった」


思わず言葉にしてしまった後、堰を切ったように涙が溢れ、とまらない。


「アハト様が生まれてなかったら、私は6歳で伯父に殺されていました。悪いのはアイリス様と伯父とヴァルトで、そして諸悪の根源は魔力量至上主義です。魔力量至上主義がなければ、魔力量の多い令嬢が王族の婚約者に決まるという不文律もなかったし、伯父が父へ捻れた劣等感を持つこともなかったし、魔力量増強薬が作られることもなかった。先王が魔力量至上主義の撤廃に力を入れ出したのもきっとそう思ったからです。大人になって親になって国王になって、いつも泰然自若でかっこいいアハト様なら理解しているはずです」


ミルカが話している間、アルベルトが私にハンカチを差し出す。その目は私を責めることなく、案じていることがわかる。


「父上が生まれていなければ、私もリクハイドもミルカも生まれてこれませんでした。たくさんの命の犠牲の上で生まれてしまったその罪は、父上だけじゃなくて、子供の私達も入れて分割です。私達に子供が生まれたら孫達も入れて分割です。皆んなで民のために尽くすことで贖っていきましょう」


そんなアルベルトの言葉にますます涙が止まらなくなる。ミルカとアルベルトとネストリの3人が私が泣き止むのを見守ってくれているのが居た堪れない。


「ミルカ。ずっと君と向き合わなかったことが心残りだった。ろくに話したこともなかったせいで、君が何を思っていたのかもわからなくて、もしかしたら私のことを恨みながら死んだのではないかとすら思ってた。ずっと君のことが心に残っていたんだ」


ミルカに対する私の思いを伝えなければと思った。涙は止まらず、聞き苦しい私の言葉を、ミルカは真剣な表情で聞いてくれた。


「伯父に連れられて初めて王城に来た時、私はアハト様の顔を見ただけで胸が高鳴って頬が熱くなって、アハト様に一目惚れしました。義務のお茶会の時も毎回胸が熱くなって、アハト様の近くにいるだけで満足だなって思ってました。私の葬儀の時に白いアガパンサスを捧げてくれて、ミルカって名前を呼んでくれた時はとても嬉しくて、もう思い残すことはないなって思いました。恨むなんてありえません」


「ミルカ、ありがとう」


「でも、生き霊になった後でアハト様の近くに行った時、何も感じなかったんですよ。あの胸と頬が温かくなる現象は自分の魔力貯留器官を近くに感じた身体の反応だったんだなって、一目惚れなんてしてなかったんだなって気づいたんです」


笑いながらそう言ったミルカに、ネストリが小声で「えぇぇ」と呟いたのが聞こえた。わかる。告白してないのに振られた気分になり、涙が少しだけ引っ込んだ。


「それから国王になって朝から晩まで国民のために働く姿、信用してた臣下に裏切られて傷ついても乗り越えた姿、家族を深く愛する姿、そんな色んなアハト様を見ました。アハト様の真面目で愛情深くて誠実な人柄を知って、改めて好きになりました。お茶会をしていた中庭の四阿に、アハト様自身で、白いアガパンサスとチョコレートを供えてくれる命日を毎年楽しみにしてました。……こちらこそありがとうございます」


私はまた涙が溢れて来て、泣きながらミルカと笑い合った。メルヴィ嬢の顔にミルカの笑顔が被って見えた気がした。

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