10話

機械人形の爆発事故の多発、政治家の汚職事件などがステレオの音を汚く染める中、ミアが12歳の誕生日を迎えた。

「ミア、誕生日おめでとう。ほら、私からのプレゼントだ。開けてみろ。」と言い、私はミアへ少し大きめの包みを手渡した。

「服かなにかかな?」と言い、ミアは包みの包装紙をビリビリと破いて見ると、首がちぎれんばかりに振って二度見した。そして、

「おっさん、ありがとう!大切に使うね!」とミアはものすごく嬉しそうな笑顔でそう言った。

「そうか、喜んでくれてよかったよ。」

包みの中は細々としたアクセサリーとクマのぬいぐるみだ。今まで、私はミアにアクセサリーを買ったことが無かった。しかし、出かける度にネックレスなどを身につけた子を羨ましそうに見るミアの姿を見て可哀想に思いつい買ってしまった。まぁ、こんなに喜んでくれるなら色んなものを買い与えてみるとするか。そう思っていると、ミアが「これはおっさんにあげるよ。」と言った。ミアのために買ってきたのに?と不思議な顔をすると

「いいから、いいから。ね、お願い!」そう言われると、いらないとは言えない。私は溜息をつき、アクセサリーを受け取った。それは、ミアの瞳と同じ色の宝石が嵌め込まれた平べったい卵型の金色のペンダントだった。

「おっさん、こういうのつけたことないでしょ?ミアもつけたことないけど。でも、ミアがつけるより、おっさんの方が似合うんじゃないかなぁって思ったの。」と指をモジモジさせながら言った。

「確かに、今まで一度もこういうものをつけたことないからな。お前に買ったものだが、そこまで言うなら貰うとしよう。」と言うとミアは、ニコッと嬉しそうな顔をした。


もうミアは12歳。体つきも良くなって、あの

実験にも耐えられるような歳になった。そろそろ、モルモットが捕まらず見送ってきた実験をするか。いや、でも失敗したらどうしようか。成功すれば、ミアはそのまま生きることが出来る。が失敗すれば、ミアを失う。そんな考え事をしながら、ミアにアクセサリーをつけてあげたり、気になっていた本を読んであげたりしている間、そんな考えが私の思考回路の中で迷子になっていた。これ以上考えるのはやめて、気晴らしにどこか出かけようと思いミアを呼んだ。

「さて、本はここまでにしておこうか。今日は私の仕事は休みだし、ミア、今からドライブにでも行くか?」

「いいよ!どこに行くの?」

「実験室に篭もりっぱなしだったから、空気のいい場所に行こうか。」

「うん!行く!」

そう言って、私たちは外出の支度と機械人形達に留守番を頼んで、少し離れた森と草原が広がる大きな自然公園に行った。


「ここすごいね、緑がいっぱいだ!」

見たことの無い光景にミアは大はしゃぎしながら、草原を駆け回った。そんな姿を見て、やはり実験はやめにしようかと考えた。確かに死ぬまでにやりたい事ではあるが、何も今しなくてもいいし、ミアと同い年の健康的なモルモットを連れて来て、実験材料として使えばいい。

「ねぇ、おっさん!!ここ来て!たくさんのお花が咲いてるよ!」といつの間にか遠くまで行っていたミアが、大きな声で私を呼んだ。

「あぁ、今行く。」と言って、私はミアのいる場所まで走って行った。引き篭ってばかりだったため、すぐに息が切れてしまい後は歩いていった。

「おっさん、大丈夫?」と心配するミアに私は、「すまん。体力が、な、いもんでな、、、」と言い、大きく息を吸った。

「歩いてくればよかったのにー。あ、そうだ!これ見て!たくさんお花が咲いてるよ!赤に、白に、黄色!あとねぇ、あっちに綺麗な青い花があったよ!」とミアは、翡翠を輝かせながら私に言った。辺りを見回すと、確かに色とりどりの花たちが、そこらじゅうに咲いていた。はて、どうしたものか。私は、花の種類には特別疎い。知らない花だらけで、ここでミアに聞かれると非常に困る。そう思っていると、いきなり手を引っ張られた。

「おっさん、こっちに来て!あそこにたくさんの青い花があったの!」と言って指を指し、ミアは私の手を強く握って指した場所まで連れて行った。

そこには、ミアの言う通り青い花が沢山咲いていた。着いたと同時に、ミアは私の手を離して青い花畑から一輪だけ花を摘んできた。

「ねぇ、おっさんこれ見て!綺麗なお花!摘んで帰ってもいいかな?」そう言って摘んだ花を私に見せた。

「あぁ、いいぞ。好きなだけ摘んでこい。」と言うと、ミアは急いで花を摘み始めた。そんなに急がなくてもいいだろうに、と思いながらふと気づいた。あの花、私の母が大好きだったものと同じでは無いだろうか。確か、ネモフィラという花だったはず。

あぁ、もう5月になるのか…私の母は、ネモフィラが綺麗に咲き始めた頃に事故で死んだ。それからずっとネモフィラを見ていないし、なんなら、実験や研究ばかりで部屋に引き篭っていたため、未だ墓参りに行けていない。いい機会だ。この後、墓参りにでも行くか。 なら、数輪花を摘んでいこう。そう思い、一心不乱に花を摘むミアの横で私も花を摘んだ。


日が暮れないうちに墓参りに行きたかったから、夢中になって花を摘んでいたミアを呼び私は、母の墓がある墓地へと向かった。

「おっさん、これからどこ行くの?」と両手いっぱいに摘んだネモフィラを見つめながら聞いてきた。

「私の母さんのところに行くんだ。母さんの葬儀以来、墓参りに1度も行ってなかったからこの際に行こうと思ってな。ダメか?」そう言うと

「おっさんのお母さんのところに行くのね。お花、もっと摘んでおけば良かったかなぁ。」

「いや、私が数輪摘んでいるから大丈夫だ。ほら、もうすぐ着くぞ。」

そう言いながら、車を花畑から母の墓地まで運転していたが案外近いことに驚いていた。


「ここ、教会?ここに墓地があるの?」

「ああ。この教会の裏に墓地があるんだ。そこに母さんは眠ってる。しかし、初めて来たからどの墓か分からんな。」と母の墓が分からない私にミアは

「牧師さんに聞いて見たらわかるかもよ?」と優しく言った。

「確かに、そうだな。初めて来るわけだから自分で探したって埒が明かないだろうし

な。」

そう言ったはいいものの私は人間が大嫌いだ

ミアに頼もうか…それは大人げないような気がする。悶々と考えているうちに牧師が近づき声をかけてきた。

「こんにちわ、誰のお墓をお探しで?」

「ヴ、ヴァイオレット・フェイの墓を探している。」

少しどもりが入ってしまったが仕方ない。

どもりも愛嬌だ。そんな変なことを考えながら周りを見渡すと一際綺麗な墓石をみつけた。

それに気づいた牧師が着いてこいと言わんばかりに私の前をスタスタと歩いていった。

「こちらがフェイ夫人のお墓でございます。」

そう示した墓は、私がボーッと見つめていたあの白く綺麗な墓石の墓であった。

雨に風に晒されてきたからか、少し汚れてしまっていたが、美しかった母に似合う白く美しいデザインの墓だと感じた。

では、ごゆっくりと牧師が一言残し去っていった。

私が指で母の名前をなぞっていつの間にか泣いている姿をじっとミアは見つめていた。

静かな時間が私とミアと母の間に流れた。

雑ではあるが、摘んだネモフィラの花を母さんの墓の前に置いた。

母は美しかった。あの研究バカの父が一目惚れして必死に求婚をしたほど、絶世の美女であった。私はそんな美しい母の元ですくすくと育った。母は聡明で温和なとても人として優れた人で、父の研究に対しても理解をし、好きなようにさせていた。その熱心に研究に勤しむ父の姿が母は好きだったのだ。しかし、その愛は途絶えてしまった。それは、父が起こした研究の失敗だった。

家が燃え尽きてしまうぐらいの大爆発で、父もその時腕をなくした。事故が起きた瞬間、母は驚いて泣く私を置いて研究室に駆け込んだ。1人ぽつんと残された私は当時居たメイドのベラにあやされながら母と父の帰りを待った。

2度目の爆発音が地下から響いた。母の次は執事が地下へ降りていった。

数十分後、腕をなくし血塗れになった父と頭から血を流し執事の背中で項垂れている母が帰ってきた。

私は一瞬で理解した。幼い頭では処理が追いつかないようなことを。

私は泣き叫んだ。なぜなら、二度と母が戻ることは無いからだ。

父もそれを理解していた。だから父も静かに涙を流していた。

大好きだった母を亡くし、家は暗くなった。

父は人が変わったかのように研究によりいっそうのめり込んでいった。

ひとり寂しくなった私は、人形を作り始めた。

裁縫は下手くそだったが、ベラに教えて貰いながら美しいドレスを仕立てあげていった。

どの人形も母によく似ていた。母の面影を置いながら、私は何十体もの人形を作り上げていった。

私が15歳になった時、父は自身の研究を手伝わせるようになった。

父は危険な実験を次々と生み出していった。

それは全て母への懺悔のようなものだった。

そんな父の姿を見て私も父と同じ科学者になった。


「ねぇ、おっさん大丈夫?」

過去の記憶に、過去の辛さに耽っていた私をミアは不安げな声で呼び覚ました。

「あ、あぁ、大丈夫だ。少し昔のことを思い出していただけだ。気にするな。」

そう私はミアの頭をポンポンと撫でた。

さて、墓参りも終えた。家に帰るか。

「おっさん、辛いこととか寂しいこととかブルーな気持ちになるようなことがあったらミアが聞くからね?」

「あぁ、ありがとうミア。」

軽く私はミアに礼を言い、ミアの手を取り教会を後にした。

花畑のそばに止めていた車に乗るとミアが摘んだ花を見せてきた。

「えっとね、これ全部Silky達に教えてもらった花を摘んだの。全部おっさんへの思いが詰まったものだから受け取って?」

そう言い、ミアは私に花束を渡した。

「私は花に疎い。どんな意味が詰まっているか分からないが、ありがたく受け取ろう。」そう言うと、ミアはほっぺを膨らませた。そんな姿が可愛くて私はミアを抱きしめた。可愛らしいその小さな体がほのかに熱くなるのを感じた。

これ以上抱きしめるとミアの体温が正常値よりかなり高く上がってしまうと思い、私はミアから体を話した。

ミアは翡翠の瞳を白黒させ口をパクパクして体をふるわせていた。

それが可愛くてクスッと笑ってしまった。

「何が面白いのよ!おっさんのバカ!」その暴言も可愛くて仕方なく、はいはいと受け流しながら車を発進させた。


家に帰りついたあとすぐSilkyとBrownieが食事を用意してくれた。

野菜のシチュー。偶然なのか母がよく作ってくれたものが出てきた。

私は楽しかった日々を思い出しながらパンをシチューに浸して食べた。

ミアはと言うとムスッとした顔で人参をつついていた。

「こら、人参も食べないと体が大きくならないぞ?いいのか?」

そう私が言うと、

「別にいーもん。ミアはこのサイズのままがいいもん」

サイズ…サイズか、確かにこのサイズならちょうどいい。このまま時間が止まってはくれないだろうか。ミアがまだ美しい純白のまま男の味を何も知らぬまま、この状態でいて欲しい。おぉ神よ、そう願う私は罪人だろうか。

そんなことを思いながら、野菜を食べるのをいやがるミアの口に無理くり口にねじこんだあとにそれが嫌だったのか、頑として口を開けないミアと格闘しながら夕食を終えた。


無理やり野菜を食べさせられたミアはブスっとした顔をしてソファーに座っていた。

「そんなに期限を悪くするな。好き嫌いをすればSilkyたちが悲しむぞ?いいのか?」

そう私が諭すとミアは「むぅ。」と言って不服そうな顔からしゅんとした顔へ変わった。

子犬のような反応を示すミアが可愛くて仕方がなかった。

気づけば私はミアにキスをしていた。ミアも私も周りにいた機械人形たちも驚き、一瞬その場の空気が固まり、時間が止まったかのように静かになった。

慌てて私はミアから体を離し、うなじまで顔を赤くして実験室へ籠った。

「おっさん…」

そうミアは言って、クロノスとキスをした唇をふにふにと触っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る