4話

服を買い与えたあの日から、私はミアに私好みの服を沢山着せた。Silkyたちもミアのその姿を見て、可愛い可愛いと言って楽しそうに褒めちぎっていた。ミアも、そう褒められることに対して満更でもなさそうに笑っていた。そして、ミアはどんどん私が望んだ体型に育っていった。

細胞の成長速度を調べたところ拾った当初のミアの年齢は9歳だった。そしてミアが齢11歳になった頃、私に縁談の話が舞い込んできた。

未だ私は、人間が嫌いだ。まぁ、ミアは別だが。

どうも、私の話を隣町にいる常連から聞いた貴族が私を婿に欲しいと言い出したそうだ。

もちろん断るつもりだ。しかし、その貴族令嬢と親バカの父親が執拗く私の家に訪ね、食事だけでもと誘ってくる。私は、面と向かって人間と話したくないから、自分の分身を使って断っているのだが…本当に執拗い。はぁ、どうしたものか。

「おっさんどうしたの?すごい顔してるけど。」

そう心配そうな顔をしたミアが、私の顔をのぞきこんできた。

ミア曰く、眉間に深く皺を寄せ酷く険しい顔をしていたそうだ。

「すまないな、少し考え事をしていた。あぁそうだ、ミア。お前に聞きたいことがある。」

「なぁに?」

ほんの少しだけ邪な気持ちが私の目の前を過ったが、聞かずにはいられなかった。

「ミア、お前は私に結婚して欲しいと思うか?」

そう、震えた声で私が聞くと

「うーん。正直に言うとね、ミアは寂しいから嫌かな。だって、ミアは…」

そう言うと、急に声がしりすぼみに消えてき、項まで赤くして最後の言葉は聞こえなかった。が、嫌という言葉が聞けて私は嬉しかった。

「そうか、ミアはそう思うのか。ふふっ。私も、お前と一緒に過ごしてきたから離れたくないな。」

そう私が言うと、ミアは頬を桃色に染めながら嬉しそうに笑った。

しかし、その後真面目な顔をして

「でも、おっさんがお誘いを受けてる人達って貴族なんでしょ?貴族って偉い人達なんじゃないの?シャーロットから教えてもらったけど、そんな偉い人たちから一緒にご飯食べましょって言われてるなら行った方がいいんじゃない?」

そう言って私を翡翠の双眸で見つめてきた。

そう言われても、私はミア以外と一緒に食事をとるつもりは無い。それに、あの貴族令嬢が、なんとなく私は嫌いだ。好みではないし、私は、ミアのようなあざとくてあどけない顔が好みなのだ。世の中の人間はそれをロリコンだとか変態だとか言っているが、私はただ、美しいと思っているだけでロリコンとやらでは無い。

あぁ、しかし、ミアのこの瞳で見つめられては折れるしかないか。

「はぁ…わかった、仕方あるまい。本当は嫌だが、行くとしよう。しかし、今回だけだ。今回だけしか行かないぞ。それでいいだろう?」

そう、面倒臭そうに言うとミアは、

「おっさん、偉いね。よしよし。」とふふっと笑いながら膝立ちして私の頭を撫でた。あぁ、ミアの手は心地いいな。


ミアに褒められたその日の晩、Silkyたちにミアの世話を任せ、私は行きたくもない貴族との食事会へ行った。

「ノッカー公爵、イライザ嬢、今日は、食事会に誘っていただき光栄です。」

そう私が言うと、公爵令嬢であるイライザ嬢が微笑んで

「フェイ博士と食事をすることが出来て、私嬉しいですわ。さぁ、食事はもう用意出来ていますの。さぁ、早く行きましょう?」

と、イライザ嬢は言い私の手を強くひいてダイニングへと連れて行った。

ダイニングに行けば、豪華な料理がテーブルに所狭しと並んでいた。

私は、基本少食であるためこの馬鹿みたいな量の料理を食べれるわけが無い。まぁ、全部を食べなければいけない義理はないはずだ。そう思いたいし、早く帰ってミアたちに会いたい。というか、もう家に帰りたい。二三話して、なにか理由をつけて帰ろう。うん、そうしよう。じゃないと、絶対にこの親子は特に、娘の方が返してくれないだろう。

「博士は、ワインはお好きかしら?」

考え事をしていた時、イライザ嬢が話しかけてきた。

「まぁ、少しだけ嗜む程度ですが…」

面と向かって話すのは苦手なため、並べられた料理や館の装飾を眺めながら彼女の質問に答えた。

「じゃあ、あなた。博士のグラスにワインを注いでちょうだい。」

そう、執事に命令をするとワゴンにおいてあったいかにも高そうなワインを、私のグラスに注いだ。

「これは?」

「博士が来られると思って、一級品の

年代物を用意させたんですの。」

ふふん、と自慢げに話すイライザ嬢に私が少々引いているのも気にせずに

「遠慮しなくて良くってよ?」とニコッと微笑みながら私を見つめてきた。

「では、お言葉に甘えて頂きます。」

確かに、一級品と言われるのも納得の味がした。味はしたが、私の好みではないし、穴が空くほど見つめられると胃が痛くなる。

そんなやり取りを見ていた、イライザ嬢の父親ウィリー・ノッカー公爵は私の飲んだのと同じワインの入ったグラスをくるくると回しながら

「最近、機会人形が流行っているのは君も知っているだろう?私たちも機械人形とやらに手をつけて新しい事業でも始めようと思うんだ。フェイ博士、君は、たくさんの機械人形を作っていると噂を聞いたのだが、どうだ?私たちと手を組んで、様々な機械人形を作ってみないか?ノッカー家の婿養子になれば、その実験と制作の費用を全て私が援助するし、君の名前を世間にとどろかせ、さらなるステップアップも期待することが出来る。私は、博士にとっても悪い話ではないと思うのだがね。」

公爵は、目をギラつかせながら私にそう言った。

その話を聞いていた彼女は、手を組んで目を輝かせながら、

「そうよ!そうしましょう!私と結婚してくだされば博士の願うことは全て叶えさせてあげられますわ!それに、私、博士の作った機械人形に興味がありますの。1度でもいいから見てみたいですわ!」と言った。

金が全くないように見られているのも癪だが、私の機械人形たちを見せるつもりは毛頭ない。あの親子のことだ、Silkyたちを汚らしい手でベタベタと触るだろう。想像するだけで嫌気がさす。私は、握っていたナイフとフォークを置き、彼女を見て

「機械人形の中には、初めて見た人間を襲うものもいます。間違って襲ってしまった場合、大怪我をする場合もあります。それに、私は機械人形たちを見世物にしたり、商品として売りさばくつもりはありません。」

私はそう断ったが、我儘で自意識過剰なイライザ嬢は

「あ!やっと私の方を見てくださいましたね!ふふっそんなこと心配しなくて良くってよ?私、こう見えて案外丈夫な体をしてるの。」

自分を見てくれたと調子に乗った上に確証のない自信を持って、そう言い張り聞く耳を持たなかった。

これだから、人間は嫌いだ。人の話を聞かないし、我儘をいえば絶対に自分のお願いを聞いてくれると考えている。私は特に、こんな勘違い女のことを反吐が出るほど嫌いだ。ミアも時々、我儘を言うことがある。しかし、私が忙しかったり、乗り気でないとわかった瞬間「我儘言ってごめんなさい。ミア、我慢するよ。」と言う。私は、罪悪感を感じるのと我慢させるのは良くないと思ったりするので、たまに、SilkyやBrownieと一緒に出かけさせたりしている。本人は、私と一緒に遊びに出かけたいと思っているようだが。


はぁ…もうそろそろ、精神が限界を迎えそうだ。もう、ここら辺で帰らせてもらおう。ついでにこの女の煩い口を黙らせよう。

「せっかくお食事に誘っていただいたのに、申し訳ございません。先程から少し体調が優れないため、ここら辺でお暇させて頂きます。あぁ、それと私は、自分のパーソナルスペースを犯されるのを何よりも嫌う性格をしております。なので、どれだけイライザ嬢のお体が丈夫であっても私が精神的に耐えられないのです。だから、これ以上、私の家に来ないでください。来られると非常に迷惑です。」

そう私が言うと、2人は驚いた顔をして固まった。その後、公爵よりも早くに言葉の意味を理解したイライザ嬢は両手で顔を抑えて泣いていた。いや、泣き真似をいていたのだろう。時折、手の隙間から私の顔色を伺っている。本当にこの女は嫌いだ。泣けば、前言撤回してくれると本気に思っているのだろう。きちんとした躾などされず、甘やかして育てるからこうなるのだ。はぁ、馬鹿馬鹿しい。そう私が思っていると、驚きで固まっていた公爵の姿が見えず、気づいたら空間術式のトレンチガンを取り出してきていたようで、娘の泣く姿を見るやいなや、私の後頭部に銃口を突きつけてきた。おそらく脅しのつもりだろう。この親子、脳みそが詰まっているのだろうか。そう考えながら、腕時計を弄り目的のモードにすると後頭部に銃口を向けているトレンチガンをへし折った。その姿を見て怖気付いた公爵は腰を抜かし、その場に経たり混んでしまった。娘の方は、やはり泣き真似だったようで目の前で起こった状況に唖然とし、後ずさってダイニングから逃げて行った。

経たり混んでいる公爵に向かって

「それでは、帰らせていただきます。」

そう冷たく言い放ち、ノッカー家をあとにした。

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