あたしの彼氏

うり北 うりこ

第1話


 あたしの彼氏のケンちゃんは、みんなからすると脳筋らしい。確かにいつも筋トレをしているし、よく分かんない筋肉の名前を口にしている。

 単純で、運動はできるけど勉強は苦手なケンちゃんは、いつもみんなから馬鹿にされてしまう。

 

「メグにはもっとイイ人がいると思うよ」

「脳筋なんかより、俺のがいいだろ?」

「ケンジ、馬鹿じゃん」

 

 あぁ、今日も外野がうるさい。ケンちゃんは脳筋なんかじゃないのに。確かに勉強は苦手だけど、誰よりも優しいからみんなが言うことを黙って聞いてくれてるだけなのに。


 それに、みんな勘違いしてる。あたしが、ケンちゃんのことが好きで好きで好きすぎて、両手じゃ足りないくらい告白して、やっとOKしてもらったのに。

 

「あたしが、ケンちゃんのこと好きなの」

 

「またまたぁ!」

「メグって本当に優しいよな」

「そんなわけないじゃん」

 

 どうして伝わらないんだろう。ケンちゃんはあんなに優しくて、真っ直ぐで、かっこいいのに。


 昔からケンちゃんは変わらない。あたしの王子様なんだから。


 あたしがからかわれた時は庇ってくれて、転んだときは自分だって怪我してたのにおんぶしてくれた。

 

「ケンちゃんだって、痛いでしょ?」

「平気だ」

「あたし、自分で歩けるよ」

「痛いんだろ。無理すんな」

 

 あの時のケンちゃん、かっこ良かったなぁ。あたしより背も小さかったのに、強くて優しくて。もちろん、今も変わらずかっこいいんだけど。



「メグム」

「ケンちゃん!!」

「俺、ジム寄って帰るけど……」

「あたしも行く!」


 ケンちゃんの逞しい腕にぶら下がり、あたしたちはジムに行く。えっ? あたしが運動するかって? ケンちゃんを見に行くに決まってる! 運動はそのついで。


「メグムも運動好きになったな」

「そうだね」


 もっと好きなのはケンちゃんだけどね。と、心のなかだけで付け加えておく。ケンちゃんはきっと困った顔をするから。

 あたしが頼み込んで付き合ってもらってるんだもん。


「メグム」

「なーに?」

「ちゃんと好きで付き合ってるからな」

「……え?」


 ちゃんと好きで付き合ってるからな。その言葉がぐるぐるとあたしの頭のなかで回る。

 ケンちゃんは、あたしのこと好きでいてくれたの? 本当に?


「もう一回言って!!」


 そう言いながら、ケンちゃんの硬くてゴツゴツした手に指を絡めれば、ケンちゃんは困ったように笑った。





 

 

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