第10話 百合営業をしかけたら

「百合営業、しませんか?」

「……は?」






 ***






 三行でわかる前回のあらすじ!


 私ことマリーの部屋の前には、主人公イリーナちゃんと悪役令嬢クリスさんが!

 突然の遭遇に沸き立つ私!

 慌てた私は咄嗟にとんでもないことを言ってしまった!


 以上!






 ***






「……やっちまったぜ……」


 馬鹿か私は! 馬鹿なのか!? いや馬鹿だ!

 なんだ『百合営業しませんか』って! 宗教勧誘か何かか!?

 いくら慌てても意味わからんわ!


「すみません、『百合営業』とは何ですか?」


 良かったよ知らなくて!

 もし意味知ってたら私イズデッド、知らなくてもとりあえず死刑だよ! さながら小さい子にサンタさんの正体を暴露した大罪人!

 奴の中身は大概保護者!


「あー、えっと……」


 どうしよう。

 『やっぱなんでもないです』は流石に通じないよね……?

 もうこの時点でとんでもなく挙動不審だからなあ。


 こうなったら無理やり押し通すか?

 どうやって??

 


 ……あー、もういいか。

 そのまま説明しちゃおう。

 どうとでもなれ。ヤケだヤケ、サケ持ってこい。


 ぴちぴちぴち……ってそれは鮭やろがい!

 ……つまんな。


「えっと、百合営業っていうのは……」






 ***






「……それで、私に女性とイチャイチャしているように見せろ、と?」

「そうです」

「……ええと、何のために?」


 うん、まあそうだよね。

 当然の疑問だよね。

 強いて言うなら私のため……かな……。



 というかこの世界にも『イチャイチャする』っていう言葉、ないし概念はあるのな。

 ま、あっても不思議ではないか。

 この世界の言語は日本語では無いものの、生まれた時から私には日本語として聞こえてくる……よくある転生特典ってやつで、多分この世界で『イチャイチャ』に類する言葉が私にはそう聞こえるって話だろう。



 まあ、そんな無駄に長い現状解説などどうでもいい。

 今となっては私は死を待つだけの生命体……。


「……はあ。まあ、いいですけど」


 …………。

 ………………?

 ……………………え?


「い、いいんですか?」

「断る理由もないですし。それで私は、何をすればいいのですか?」

「貴方様は天使ですか?」

「……?」


 いかんいかん。

 つい本音が口をついて出てしまった。

 天使? 足りないだろ。言葉が。比喩が!


「そうですね……? た、例えば、手を繋ぐとか……」

「わかりました」


 クリスさんが私の手を握ってきた。

 私の、手を。

 うん、あたたかくてやわらかくてやばいなんだこれ天国か……。



 ……え?


「え、その、なんで……」

「……? 貴方が、こうしろと言ったのでは?」


 そうだったそうだった。

 私は百合営業をしてくれと言ったんだった。



 ソレデドウシテコウナッタ?


「な、なぜ……私……?」

「え……だって、百合営業とは女性同士が仲良くすることですよね?」


 ああうん。

 すんごいざっくりだけど、そんな感じの説明した気がする。

 なるほど。

 私も女性だからね。


「…………」

「…………?」


 クリスさんがめっちゃ見てくる。

 めっっっっっっっちゃ見てくる。


 やめてください、私はあなたに見つめられるだけで心臓が跳ねる弱き生き物なのです。


「ぅぁ……」

「あの、何か足りなかったですか?」

「!? い、いえいえいえいえいえいえいえいえいえいえ! そんなとんでもない! 滅相もございまゴフッ……」

「そう……ですか……?」


 クリスさんの赤面いただきます。

 ご馳走様でしうっぷ……尊みの過剰摂取でアナフィラキシー……。

 本当に、本当にありがとうございました。

 ああ駄目だ、後光が見える。


 拝んでおこうかな。


「おお、神よ……」

「お、狼……?」

「かわっ……くっ! なぜ……なぜ私を苦しめる!」

「は、はい?」


 ああかわいい困惑顔かわいい首絞められたい踏まれたい。



 ……どうしてこうなった?

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