第8話 「学園長の話」を始めます
「ぁぅぅ……」
「おらよ、着いたぜ嬢ちゃん……いや大丈夫か? なんだったら、俺が荷物持ってって……」
「あ、いや、大丈夫ですぅ……。お、お構いなくぅえっぷ」
「そうか? それなら荷物はここに置いておくぞ」
「はひ、ありがとう……ございました……ぅぇぇ」
……着いた。
やっと着いた。
死ぬかと思った……。
せいぜい一時間の道のりがこんなに辛いとは……!
この世界にカメラがなくてよかったと心底思う。
多分今、海から上がったばかりのゴジラみたいな顔面になってるだろうから。
もしもこの顔を写真にでも撮られた日には、憤死と恥ずか死を同時に経験してしまうだろう。
「まわりに人、いなくて、よかった……やばい倒れるまってまってしぬ」
ぶっ倒れそうになる体を必死で支え、重い荷物を背中と両腕にくくりつけるようにして運ぶ。
さながら初めて上京した若者だった……まあこの学園、そんな都会にあるわけじゃないけど。
とはいえ、ここからだ。
まずは誰か職員の人に挨拶をして、荷物を寮の部屋に置く。
その後はなんか入学式的なやつがあるようだ。
転生してもそういう文化はあるのな。
ああいうものはあんまり好きではないが、まあ仕方ない。
学園生活の第一歩、せいぜいやってやろうじゃないか。
***
「──であるからして、この場……生徒は……誇りと自覚を…………」
「ぅ、あああぁぁ……」
お決まりの文句。
いや、それ以下だ。
耳にたこができすぎて、腐り落ちるんじゃないかとすら思えてくる。
眠さと疲れのあまり、目が眼窩から溢れ出そうだ。
「君たちは未来……世界……変え…………」
入学式。
人生でもそう何度とはない、めでたい日。
だけどこれは……暇だ。
あえて言おう。
クソだりいと。
いわゆる校長ポジション、責任者的な老人の話が長いって、やっぱり全世界共通なの?
あれなの?
そういった役職に就いたら長話をしなければならないとか、そういう決まりでもあるの?
「つまり、えー、私が言いたいのは…………」
ここ、割と格式がある……というか時によっては国の王子様なんかも通うような結構いいとこの学園なんだけどね。
みんな死んでるよ、顔が。
あと目が。
あそこのやけに豪華な服着たのって、もしかしなくても貴族とかだよね?
多分普段からこういう話を聞くのには慣れてるタイプの人種だよね?
その彼を持ってしても、死んでるよ。目が。
「だっる」
「話長いな……」
「うざいクソが黙れ禿げろ……禿げてたわ」
「pぉkみjぬhbygvtfcrdぇszわくぁzwsぇdcrfvtgbyhぬjみkおlp」
みんな好き勝手言ってるわ。
隣の人なんか話の長さのあまりなんかブツブツ言い出したし。
やばくない? 呪詛か?
つうか何人か明らかに寝てるよね?
学園長は気付いてないけど、周りにいる先生方は明らかに気付いてるよね?
いいのか? これ。
あ、目逸らした。いいんだ。
あれだ、先生方も内心うんざりしてるやつだ。
もういいじゃん。
誰か止めろよ。
ドクターストップというかティーチャーストップしてくれよ。
なんかめっちゃ熱弁ふるってるけど、多分もう誰も聞いてないって。
「はい、つまりは、この場に集まった君たちには、えー、ぜひとも、充実した学園生活を送ってもらいたいものなのです」
あ、でもそろそろ終わりそうな雰囲気か?
先生達の顔にも活気が戻って……。
「では、最後にひとつだけ……」
あっだめだこれ。
まだまだ終わらないわ。
みんな騙されるなよ、あれは罠だ!
あれは絶対『ひとつ』じゃない! そう言いつつなんだかんだで色々と話して時間が伸びまくるやつだ!
私は知ってる! 知ってるぞ!
だって先生方がもう悟りを開いたみたいな顔してるし!
安心しろ、私はそれを知っている!
死ぬ時は一緒だ!
***
……そして案の定学園長の話は馬鹿みたいに長引き、昼過ぎには始まっていたはずの式が終わる頃にはもう日が暮れていたという。
なおこの一件をきっかけに学園長には『ハナゲ』というあだ名が付いた。
ざまぁ。
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