第7話 死亡フラグふたたび

「はあ……はあ……」

「クゥーン……」


 オリバーを後ろから抱え上げつつ、肩で思い切り息をする。


 やっと追いついた……。

 普段そこまで運動しないツケが……。

 こんなことなら、もう少し運動慣れしておくんだった……いやこんなことが何度もあっても困るんだけど。


「全くもう……」


 それにしても、結構時間が経ってしまった。

 そろそろ出発しなければまずい。


 最低でもこれから何年かは寮生活になるので、結構大荷物だ。

 衣服や身の回りのものを十全に持っておく。


 学園はものすごく遠い場所ってわけではないけれど、それでも歩いて行くのは結構きつい。

 ならどうするかというと……馬車だ。


「……お、きたきた」


 馬車。

 あまり詳しいわけではないが、確か箱馬車ってやつだ。


 ファンタジー系の異世界転生もの御用達の乗り物。

 転生ものは基本的に現代よりは文明が遅れていることが多いので、こいつが登場することは結構多い……気がする。

 前世では私はただの女子高生だったし、転生してからも馬車を使って移動するようなことはなかったので、これが初体験だ。


 結構揺れるらしい……が、あまり乗り物酔いはしない体質だったしまあ大丈夫だろう。

 それにさっき言った通りそんなに距離もないし。

 ご飯もちゃんと食べてるし。


 ……濃厚な死亡フラグの香りがするのは気のせいだ。


 ともあれ、出発の時間が来た。

 両親とオリバーに別れを告げ、荷物を乗せて、いざ出発。

 楽しい学園生活の始まりだ。






 ***






「うっ……うげぇぇぇぇ!」

「おいおい嬢ちゃん、大丈夫か? こいつに乗るのは初めてかい?」


 うん。知ってた。

 そうなる気はしていた。


 まあ乗り物酔いあんましなかったとはいえ、それはあくまで舗装された道路を走る自動車での話。

 この世界での、舗装もろくにされてない道を通る馬車とは揺れのレベルが違った。


 というかそもそもなんだか忘れがちだけど、今の私の体は前世でのそれではないのだ。

 前世でいくら乗り物に乗ってても、それが今世の体に引き継がれるわけもない。


「あ……あと、どれぐらいで着きますか……?」

「あー、もうちょっとだ。あと三十分ぐらいだな」

「うげぇ……」


 ちょっとじゃない。

 全然ちょっとじゃないよそれ。

 まあもう出るものも無いから、吐くことはもう無いだろうけど。



 ……つらい。

 これから馬車に乗るたび、こんな苦痛を味わうのか?

 しかも酔い止めみたいなのもないんだよね。

 なんかこうそれっぽい葉っぱを口の中に含んどけば、プラシーボ的なあれでマシになったりしないだろうか……。


「辛いなら寝てたらどうだ? 着いたら起こすぞ」

「ああ……そうさせてもらいます……」


 ありがとう運転手のおっちゃん。

 めっちゃ強面だが、案外優しいじゃないか。

 お言葉に甘えて寝かせてもらおう。


「うっぷ……」


 荷物をずらし、なんとか体を多少でも寝かせられる場所を作る。

 幸いにもあまり人がいない区間なのか、他に乗客はいない。

 鞄の比較的柔らかい部分を枕にし、ぎりぎり腰が痛くならないくらいの角度で体を傾けた。


 ……うん、寝心地は最悪だな。

 まあ起きてるよりはマシだろう、多分。

 とにかく、これからあまり馬車に乗る機会がないことを願う……。

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