その2「とうきび、よしかかるくらい美味しいね」

 

 朝ご飯を食べてから数時間。

 お昼になり、お腹もすいてきた頃。


 何やらジリジリと焦げる音が聞こえ、バーベキューのような不思議と甘い良い香りが鼻を擽ってきた。


「ふんふぅん~~~ふ~~ん♪」


(ん、なんだかいい匂いがするなぁ)


「……ん、どうしたの? あ、もしかして、いい匂いに釣られてきちゃった?」


 僕が頷くと紗那さなの方は可愛らしく、エプロン姿でにひっと微笑んだ。


「とうきび作ってるんよ、ほくほくのあまだれ入りのとうきびっ! 朝食べたいって言ってたでしょ?」


(あぁ、だからいい匂いがしたのか)


「いい匂い……あぁ、もう。お鼻くんくんさせちゃって、昔からの癖しょ?」


「私が昔してたって? うわぁ、ちゃらんけよくないよぉ」


「あははっ怒らんといてって——」


 肩を小突いてきて、耳にそっと手を添えて呟く。


「冗談だよ。そうだね、お姉ちゃんのだもんね?」


「う~ん、めんこいねっ、君は。お鼻が利くのがワンちゃんみたいで」


 指で頬っぺたあたりをうにうにと触られて、胸が高鳴る。


(そ、そうかよ)


「うん? 何不貞腐れちゃって~~。朝までわたしに意地悪してたのに」


「え、私が悪かったって? ひどい! 別に私だってしたくてそう言うことしてないのに~~」


「んまっ。でもね、そうやってたまにつんけんするところも……犬みたいで、なまらめんこいね」


 今度は腕を上げて、優しく僕の頭を撫で始める。

 わしゃわしゃと髪をぐちゃぐちゃにしてくる。


「それに……なんだかんだ言って、わたしの方が年上だしね?」


「関係あるもん!」


「いいじゃん、そうだよ? わたしの方が早生まれだもん、だから私《わたし 

の方が——君の」






「——せ・ん・ぱ・い——」






 すっと身を寄せて、耳元で優しく囁いた。


「——だよ?」


「あ、顔真っ赤」


(っ)


 両頬を紗那さなの両手が包み込む。


「うーん、そういうところもめっちゃめんこくて好き!」


 何の気もなく不意に抱き着いてくる紗那さな

 胸が当たり、ドキマギしてくる。


 しかし、後ろから焦げる音が聞こえてくる。


 ジリジリジリ。


(あ)


「ん、どうしたの、そんな顔して?」


(後ろに指をさす)


「え……っあ⁉ こ、焦げてる!! あぁ、もう、せっかく焼いたの又最初からやんないといけないじゃ~~ん」


 おろおろとどよめく声が離れていく。



☆☆☆



「ふぅ、なんとかなったぁ……ごめんね、もうお昼すぎちゃったね」


(気にしてないよ、ありがと)


「ありがとって改めて言われるとなんだか照れるね……」


 腕を引いてソファーに座る。

 朝ご飯の時よりもぐっち近づいて座る紗那さな


「よいしょっと。うん、なしたの、その顔? わたしの顔に何かついてる?」


「何もないならいいんだけど……って、話してたらさめちゃうしょ。ほら、はやく食べよ? 君の分、どーぞ」


(ありがとう)


「これは私の分だねっ。よしっと、それじゃあ――って、あ、ちょっと待って」


「うーん。なんかさ、君のとうきび……なんか、わたしのよりも大きくない?」


(そうかな)


「え、いやいや、おっきいって! ほら、あそこの窓から見えるツララのぼっこくらい」


(それは言い過ぎだよ)


「言いすぎじゃない……けど、いやまぁ、私の方がお姉さんだからねっ、我慢するっ」


(自分で言うなよ)


「……うぐ……う、うっさいし、ばか」


「んしょ、ほら、早く食べよ」


 向き直りとうきびを持ち上げ、はむはむと食べ始める。


「はむはむ……んっ。おいしっ! これ、やっぱりなまらおいしいね~~」


 美味しそうに食べていると紗那さながこっちを向きながら見つめてくる。


(何?)


「なんも~~」


(え?)


「いやいや、別に。やっぱり犬みたいでめんこいなぁって思ってただけよ?」


(どこが)


「どこがって……ほら、頬っぺた」


(え?)


「頬っぺたにとうきびの粒がついてるの。あぁ、待ってわたしが取ってあげる」


(う、うん)


 指を刺されて驚いていると、すぐさま紗那さなが顔を近づけてきて、耳に近い頬っぺたに。


「——はぁむ」


(っ⁉)


 ガタンと揺れる体。

 テーブルに当たる脚。


「んも、君は世話が掛かるワンちゃんだね。ぼっこ取ってきて?」


「犬じゃないって分かってるよ~~、そんな怒らんでって。ほら、まだまだ残ってるから食べよ?」







「————あぁ、夜もこうして一緒にいられたらいいのになぁ」




☆北海道弁☆

とうきび:とうもろこし

ちゃらんけ:言いがかり、言い訳

ぼっこ:木の棒、木の枝



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る