第42話 エンドロールのあとで

4/25 8:04 宮台新 予備校跡


「帰国早々濃かったな」


 日本に戻ってすぐに起きた大事件はこうして幕を閉じたのだった。麻薙の計らいで大学は編入扱いになっているとのことだった。麻薙には、


「魔薬がなくなった世界でも食っていけるように、まずは正式な薬剤師になることね」

と言われた。


 特に目的はなかったが、麻薙の仕事を手伝い、都の成長を見守る傍らで大学卒業の単位を得るのも悪くない。薬学系の知識は実地でとっくに身についているし、授業に出ないで怠惰な生活をしていても試験は軽くパスできるだろう。やっと眠れるようになってきたのだ。これから俺は失った数年間の睡眠を取り返さなければならない。そう思って意識を飛ばそうと思ったところで


「新せんぱーい! 学校行きますよー!!」


 俺を呼ぶ声が聞こえた。かなり大儀だったが、ベッドから出てパジャマのまま愛すべき後輩を出迎える。


 顔を合わせて早々に


「スウェット……」


 と一瞬呟いたが西永は表情を何とか笑顔に戻して言う。


「じゃ、行きますよ!!」

「え。いかないが。俺は寝る」

「いやいや、出席日数足りなくなりますよ」

「そんなの麻薙ならどうとでもなるだろ」

「麻薙さん、自分の教科以外の出席日数の融通はしないって言ってましたよ。教授全員とパイプがあるわけじゃないし、どこから敵が現れるかわからないから弱みは見せられないって」

「おいおい嘘だろ」

「あと、また留年したらその分の学費は自分で払ってもらうって」

「どこの親だよ」


 となると俺は朝起きて午前午後と学校に行き、夕方に帰宅する? じゃあいつ布団に入ればいいんだ? 机に突っ伏して寝るのなんか睡眠の質が下がるに決まっているし風邪だって引くかもしれない。俺は風邪をひきやすいのに。


「愕然とした顔しないでくださいよ。いいから行きますよ新先輩」

「わかったよ、わかった。今後の対応は考えるとして今日はとりあえず学校行くか」

「10分で支度してくださいよ」

「おー待ってろ」


 服を着替え、西永と共に外を出て駅に向かう。日差しは日ごとに強くなり、初夏の始まりを感じさせる。説得されて外出したことに若干の後悔を感じないでもないが、全体でみると差し引きで多少のプラスといったところだろうか。悪くないはずだ。他愛もない話をしながら無理やり学校に通わされる日常パートも。そう思っている自分がいることに滑稽さを感じる。


「はは」

「げ、新先輩が笑ってる……」


 妙なことを言ってきた西永の頭を無言ではたく。まるで沸騰したように喚きだす西永を尻目に、俺は到着した大学の校舎を見上げるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

パラレル千葉・オーバードーズラボラトリー @ienikaeru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る