第39話 私の告白

4/15 16:20 西永都 千葉県 某海岸


「行きましょうか」


 宮台さんが倒れている横で正座して砂浜に座っていた私は、パンッパンッと膝についた砂を払って言った。


「西永」

「はい?」

「今回の件でわかったろ。誰かに心酔するな。お前はお前で正しいかどうかを決めるんだ。考えずに流されていると思わぬ邪悪の片棒を担ぐこともある。そしてその歪みが自分を追い詰めてくる」

「それでも。それでも私は麻薙さんの手伝いをしたいです、救ってもらったから」

「自分で決めたならそれでいい。しばらくは日本にいる。あいつも柵が多い奴だ。自由に行動できないこともあるだろ。何かあったら言え」

「ありがとう……ございます。……宮台さん」

「……言おうか迷ったんだが。お前が傷ついても本心を麻薙にぶちまけず、すべてを飲み込んで戦った姿に敬意を表す。当時の麻薙がどうだったのか、真実は俺も知らん。でもお前は確かに【無色透明の薬剤師】に勝った。奴が仕掛けてきたのは精神を摘む戦いだからな」

「うっ、うえーん」


 認められていたのだ、私は。感情が溢れて泣いてしまう。父の、麻薙さんの役に立とうと思って生きてきたこの数年。言外に彼は、私の数年を肯定してくれた。そして今後は何かあれば頼っていいと言ったのだ。思えば頼っていいなんて直接言われたことなんてなかった。私はしばらくその場で涙を流し続けた。


「泣くなよ」


 呆れたように、そして気まずそうに宮台さんは言ったのだった。


 水色の車から降りた麻薙さんが見える。待ちくたびれたのか車に寄りかかりながら煙草を吸いはじめた。言うなら。言うなら私も今しかない。涙を腕で拭って鼻を啜る。


「あのっ」

「なんだ」

「私、仕事ばかりで大学に友達が少なくて、だから先輩がいなくて、で、宮台さんも途中で研究室抜けて休学になっていて……だから宮台さんも大学生みたいなもので」

「なんだよ」

「み……いや、新先輩も……困ったことがあったら言ってください。……駄目な先輩を手伝うのも、後輩の役目、ですから……」


 下を向いて絞り出すように言った。顔が真っ赤になっているのは気づかれていないだろうか。恥ずかしさで顔を上げられない。でも。何となくだけど新先輩も息をのんだような気がした。


「ま、頼む。信頼、してるわ」


 驚いたような調子で返し、私が上を向く前にさっさと車の方へ行ってしまった。


「いくわよー。都ー」


 麻薙さんの声が聞こえる。


「はいっ!!」

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