第38話 星体投射

4/15 15:50 宮台新 千葉県 某海岸


「どこだ? ここ」

「市川の辺りでしょうか」


 眼を覚ますと砂浜に横たわっていた。隣には相棒の少女。何故か正座をしている。


 太陽はまだ明るい。水で冷えた体を温めてくれている。服は生乾きだったが嫌な心地は全くしなかった。


「どれくらい経った?」

「3、4時間でしょうか」

「助かった。ありがとう」

「海の中にいるのに寝ていたのは私もびっくりしました」

「すまんな」


 ちょっとした嫌味を相手にせず軽く謝る。巨大な能力の使用後の大きな虚脱感。


 星体投射と名付けたこの技は、自分の影響範囲を極限まで広げて宇宙空間から隕石を落とすという技なのだが、そこまで影響範囲を広げると、薬の効き目が無くなった後に、魂が全て回収できていないような精神的な痛みを感じる。広げた意識を元に戻すような自覚はなく、突然自分の体で目を覚ますような感覚でいつも能力の終わりを感じる。宇宙空間に漂っているはずの俺の意識はどこへ行くのだろう。


 今ここにある自分の意識すら霧散して、なくなってしまうんじゃないかと思えるほどの虚脱感だが、思考をし、会話をすることで無理やりにこの世に自分を縛り付ける。


「麻薙は」

「麻薙さんに連絡して車を手配してもらいました。そんなに時間かからないから私が行くわって言ってました」

「ああ」


 海が見える。地平線の向こう側には黒煙が永遠と立ち上っている。


「あの。彼の最後のアレは」

「知らん。完全に謎の能力だ。魔薬の世界はまだまだ謎が多い。考えないことにした」


 深い集中により無自覚だが驚異的な能力の向上が見られた西永と、敗北の恐怖により俺の能力に追いついてきた麻薙光学。鍵となるのは精神状態。おそらく今回の戦いにより魔薬の世界は次のステージに上がったのだろう。麻薙の求めている通りに。


 麻薙のものと思われる、水色の車が見えた。


「来ましたね」

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