第34話 見つかったものは
4/15 11:42 宮台新 旧市街
土煙、瓦礫の中から仁王立ちの人影が一瞬見えたかと思うと、空から降りだした巨大な氷の塊を、目にもとまらぬ速さで避けていく。体を硬質化して衝撃に耐え、その後は、運動能力を上げて人知を超えたスピードを出していると。
「こりゃ魔法のレベルだ」
通常は薬剤を服用してから数分から数十分という単位で効果の発現には時間がかかるはずなのだが、偽薬(プラセボ)であるなら、そういう常識(ルール)を逸脱していてもおかしくない。
湧き上がる精神的な興奮を抑え、努めて冷静に敵の服薬状況を分析する。向精神魔薬の大量投与は自分の人格を超える異常な高揚を生み出すが、もちろん戦闘に悪影響であることは言うまでもない。今だって気を抜くと含み笑いを抑えられなくなりそうだ。テンションは抑えてとにかくその分念動力の影響範囲と強度を拡張して――。
初めてこの奥の手を使用した時は先ほどの都のように、途中で思考のループが始まってしまい破壊だけを望む化け物と化してしまったが、今は経験と精神力でぎりぎりのコントロールが可能になったのだった。
「飲み込んでねーなあれ」
「え? どういうこと? ですか?」
「舌下投与してる」
「あいつは自分の服用しているものが躁臓を刺激するだけのプラセボって気づき始めてる。だから、矛盾した瞬間能力がなくなるんじゃないかと思ってたが」
「そうではなかったんですね」
「ああ、舌下投与は確かに作用発現が早い。ある種の薬は、緊急時には舌下投与での服用が推奨されていたりもする。まあ口の中で溶けた薬が効くわけだから矛盾しているといえば矛盾しているが、ギリギリ自分で納得できるレベルだったんだろ」
「で、今は硬質化解除しての高速移動。奴は避けるだけで精いっぱいだろうが、こりゃ当たんねーな。小賢しい、大気圏外から隕石でも落として殺すか?」
「いや、それ日本の陸地減っちゃうやつじゃないですよね」
「ここって埋立地じゃなかったっけ。また埋め立てればいいんじゃないか?」
「何言ってるんですか!!」
自我を取り戻した少女。普段投与中の成長の注射薬も再投与を済ませ、ある程度動けるようになっているようだ。俺はいつの間にか対等に話しかけてくる彼女に好感を抱いている事に気付く。西永は相手の能力の無力化こそできなかったが、実際に【無色透明の薬剤師】に太刀を浴びせ、前衛としての仕事を果たし、敵に精神的なプレッシャーも与えた。麻薙とも違う、実際に戦いで背中を預けられる存在。
「仲間か」
呟く。薬剤による高揚とはまた違う感情で口元が緩んだ。たしかに。俺の探していた何かは見つかったようだ。
「え? なんて言ったんですか?」
「制限つきの戦いも悪くないってな」
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