第23話 私の朝食と、彼の気遣いと
4/14 10:00 西永都 予備校跡
窓から差し込む朝日で目が覚めた。昔を思い出している間にどうやら寝てしまったらしい。私は、昨日は予備校の応接室と思われる小さい個室で一晩を過ごしたのだ。人の家に泊めてもらったので文句は言えないのだが、ソファで寝たせいで体が痛い。憂鬱な1日ではあったが、一晩で心は大分回復していた。軽く肩を回しながら部屋を出る。
「起きたか」
「おはようございます」
部屋の外、つまり談話室兼受付だったところでは、すでに宮台さんが待っていた。寝てないのだろうか、それとも意外とぐっすり寝ていた私への嫌味か。しきりにあくびを繰り返している。
「朝飯用意するから待ってろ」
「え!?」
彼の不健康なイメージからかけ離れた言葉に私は声を上げてしまう。
「何だよ」
「え、いや、ありがとうございます。なんだかイメージと違って」
「食わんといざという時に動けないからな。ちょっと待ってろ」
1人暮らしになってから、私は朝はフルーツしか食べていない。何だかんだ学生も朝は時間がないのだ。実家で暮らしていた時はお父さんが作ってくれていた。それを思い出す。宮台さんは海外暮らしが長かった、ということは、もしかしてオムレツを焼いて、トーストと……それとも和食……みそ汁とご飯のセットも嬉しい。
そして運ばれてきたのは。
「安定のディストピア飯で安心しました」
コーヒーとバランス栄養食のビスケットだった。料理の匂いがしない時点で気づいて当然なのだが、完全に朝食らしい朝食が来ると私は思い込んでいたのだった。
「ガスコンロがねーんだよ」
たしかに昨晩の食事はカップラーメン。電気ケトルで沸かしたお湯でつくったものだった。用意してもらって文句ばかり言っていると罰が当たるだろう。彼が私を客人と扱ってくれていることも少し嬉しかった。
「いただきます」
質素な味は意外と嫌いではない。水分を取られ、乾いた口内にコーヒーを流し込む。
「食い終わったら大学行くぞ」
「……はい、麻薙さんに私謝らなきゃ」
考えると少し重い気分になってきた。そもそも先日の事件でしばらく休校が決定したのだ。家に閉じこもっていてもいいんじゃないかというささやきが聞こえる。それを事前に察知していたのだろうか。宮台さんは麻薙さんとのスマホのメッセージ画面を私に見せてきた。
「別に和解は今じゃなくていい。校内にいればいいとのことだ。何かあったら来てくれと」
私はほっと胸をなでおろしたのだった。
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