第21話 ラスボスの回想、そして暴走
4/13 20:00 xx光学 某所
「取り逃がしただと? あれほど言ったじゃろ。奴らは危険だと」
アジトに帰り、僕は、2人を襲ったが邪魔が入って逃げられたことをキミドリに伝えた。
だが、爺は僕の戦果に納得がいっていないみたいだ。
「だから邪魔が入ったんだよ。そういう事前の障害を取り除くのがお前の仕事じゃないの?」
「ぬ。命令に逆らうのであればお前の処ぐ……」
言い切る前に壁に叩きつけてやった。戦闘能力もないくせに偉そうにしやがって。衝撃と共に僕の本棚からゲームやら漫画本やらが大量に落ちる。キミドリに買い与えてもらったものだが、それを見ても僕の頭は全然冷えなかった。
「ったく僕の好きにさせろよ。才能のない老害が」
「お前が廃棄されそうになったところを助けた恩を忘れたのか?」
思い出す原風景。それは古びたアパートの一室だ。そこで幼い僕は姉と一緒に数式を解いている。家族の記憶はそれだけで、その後の記憶は真っ白い四角い部屋に移る。
怪しい実験室のテンプレートみたいな部屋で、能力についての講義や映像を見せられ、色々な薬を飲まされた。その度に僕の能力は増えていった。命じられたことだけをする日々だ。
マジックミラーやカメラの向こう側で記録をとっている大人たちによく見えるように力を使ってきた。だが、ある日気づいた。僕は何故向こう側の部屋での大人の動きを把握できているんだ? と。こうして、僕は薬剤の服用で見えない場所を把握し念動力を使えることに気付いたんだ。
最初は向こう側の部屋のペンを気づかれずに動かす程度から始め、力の使い方を練習していった。数か月後には広い研究所全体に影響を及ぼせるようになった。集中すればどこまでも影響範囲を伸ばせる。そう思って知覚を広げると研究所の敷地の外にまで能力が及んだ。
外の世界。そんなものがあるなんて思いもよらなかった。小さいころには普通に暮らしていたはずだが、ここ一年弱でその記憶はすっぽりと抜け落ちていた。
外の世界や自由。それを思うともう居てもたってもいられなかった。能力データの採取実験を拒否し、懲罰房に入れられる。懲罰房といっても実験動物の僕だ。薬はいくらでも手に入った。そこで僕は長い集中に入る。能力は完成した。その直感を得た後、僕は研究所を破壊した。破壊したのは機構の研究所だ。追手は直ぐに来たし、外の世界で一人で生活したことのなかった僕は、食物もアジトもない。能力の戦いでは敵がなくても、いとも簡単に追い詰められた。そこに現れたのがキミドリだった。
「儂と共に日本を救わんか?」
つまりスカウトだ。機構から出された処分命令が保留され、僕はキミドリ直属の汚れ仕事専門の部下として、彼から教育をうけながら様々な裏の任務に身を投じていったのだった。
「恩もあるけど、お前も他のやつらとそんなに違わない。僕を使いたいだけだろう」
「儂はな、この国の未来を考えてお前を擁立しておるんじゃ」
勝手に僕を作った大人とその仲間たち。彼らは勝手に僕を能力者にし、勝手に殺そうとし、勝手に命を救って、その能力を国のために使うといっている。本当にくだらない。僕を助けてくれなかった世界をなんで僕が助けないといけない。
「国、政治? 僕には関係ないね。僕は遊びたい相手と遊ぶだけの【無色透明の薬剤師】だ」
キミドリは呻きながら意識を失った。もう一撃食らわせれば簡単に殺せる。でも今までの礼と、【黒の薬剤師】と出会わせてくれた礼だ。命は勘弁してやろう。
「さて。こっからは――僕の自由にやろうかな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます