第20話 絆される心
4/13 17:00 宮台新 予備校跡
「【無色透明の薬剤師】。彼は麻薙さんへの復讐をしようとしているのでしょうか」
「実薬を徐々に偽薬に替えていくことで、能力者を作るプラセボ代替計画。麻薙が関わったというのは事実だろうが、直接の研究や治験対象者かはわからん」
西永は煮え切らない表情。駄目押しで説明を加える。
「白の死後、麻薙に引き継がれたあの実験は当時業界内でかなり注目されていた治験だったろう。好き放題暴れまわっていた俺でもその熱狂を知っていたくらいだ。おそらくデザインされた研究は各国が研究できるように公開されていた。それを歪めて悪用したものが、【無色透明の薬剤師】を作ったんじゃないかと思っている。自分が少しでも関係していたら責任を取る。あいつはそういう奴だろ」
「そうですね」
西永が少しほっとした顔をしたため、何故か俺も少し安心した。
でも、おそらく。麻薙は今回の件に直接関わっているんだろうと思う。まだ物証はないが、白を失ったときの、世界に自分達が見捨てられたようなあの気持ち。同じ気持ちを麻薙が感じていたのなら。
「行き過ぎることはあるだろうな」
だけど、まだ真実を伝える必要はない。西永に乗り越える器が育ってからでいいし、それも間もなくのことだろう。
「それは、麻薙さんの話? それとも宮台さんの話ですか?」
さっきの言葉が思わず口からこぼれていたようだ。聞かれてしまった。自分の存在がないがしろにされているとき。大切なものをなくした後。この世界を憎む気持ちは痛いほどわかる。全て滅茶苦茶にしたい。そんな気分で手に入れた力を使って海外で暴れまわっていた。
「結局俺は白を殺した奴に復讐したわけだが、別にしたくてそうしたわけではなかったかもしれない。自分にブレーキがきかなかっただけかもな。それが終わった後は何をしたらいいのかわからなかった。ここ半年くらいは割と無気力に過ごしていたし。俺があいつに呼ばれて素直に日本に帰ってきたのは何かを探していたからなのかもしれないな」
だが、同じようにあいつもまだ囚われていたとは。
「【白の薬剤師】の研究のその先には、極端な、いや、最悪な結果しか待っていないのではないかって思うよ」
考えるのが面倒になり、適当に総評して話を終わらせる。何と答えていいのか迷っているであろう西永を見て俺は言う。
「訂正する」
「えっ」
何の話をされたのかわからないという顔だった。もちろんそれは俺の説明が足りなかったせいだ。再度言うのはとても嫌だったが、もう少し解像度を上げて言葉を放った。
「ガキって言ったのは訂正する。悪かったな」
思わぬ贈り物をもらったようなその顔は、やはりまだ少し少女の面影を残していた。
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