第17話 私には内緒の核心の話

4/13 14:50 西永都 麻薙研究室 教授室


 私が別室に行けば二人は内緒の話をするだろうと思っていた。ひどく疲れていて、情けない気分だったけど、聞かなければいけない。ドアを閉めて、麻薙さんの部屋の中で、休む支度をするようなそれらしい音を少し立てて後は聞き耳をたてる。


 朧気だが、二人の会話が聞こえてきた。宮台さんはさっきの敵の能力について話しているのだろうか。


「ええ、なるほど」


 全てを聞き終えた。麻薙さんの相槌に驚きの感情はない。麻薙さんは既に敵を知っている?


「つまりだ。あいつは原則(ルール)から外れている。異常だ。そんな存在はありえない。俺以外には」


 宮台さんは続ける。ホワイドボードに何事か書き込んでい音がする。魔薬の原則だろうか。


「・△能力の発現には服薬を伴う。

・※薬剤の吸収、血中への移行ののちに能力は発現する。

・※能力は薬物代謝と共に次第に効果を失う。

・投与経路、もしくは薬剤の剤型変更により、投与後能力発現までの時間は短くなるが、同時に能力の代謝までの時間も短くなる。(逆相関関係がある)

・発現する能力は服薬の量に対して相関関係があるが、ある一定の量を超えると、リスクベネフィットのバランスが崩れる。能力発現も青天井というわけではない。

・※自身が代謝できない量の薬物の服用は、副作用が強く出る恐れがあり、また思わぬ効果のブレが起きる場合があり危険である。

・※多種類の薬剤の服薬を同時に行うと能力が混ざる恐れがある。薬剤の種類を増やせば増やすほどその危険は大きくなり、代謝時の臓器の負担も高まる。


 以上、印をつけた原則を敵は無視している可能性がある。次は、色付きの【薬剤師】と照らし合わせて考えてみる。【赤の薬剤師】は様々な能力を使いこなす戦闘タイプ。オールラウンダーで持続力があるが出力が弱い。【白の薬剤師】は副作用のない魔薬の研究をしているが、副作用0は現在の技術では事実上不可能。【緑の薬剤師】は……置いておこうか。兵隊の予後なんて考えちゃいないだろう」


「【赤の薬剤師】、【白の薬剤師】、【緑の薬剤師】そのどれもが原則の中で生きているわ。原則を外れる能力者は新君だけね。君にしたって全部の原則を破れるわけではない。破れるのは代謝に関する原則だけ。彼はその原則のいくつかを破っている可能性があると」

「プラセボ代替計画」


 宮台さんが、はっきりと口に出した知らない単語。私は聞き耳を立てているだけで、向こうの部屋を見ていないはずなのに麻薙さんが一瞬苦い顔をするのがわかった気がした。


「魔薬使用者の薬剤を段階的に偽薬に変えていき、肉体への負担を減らすと同時に、偽薬での思い込みにより能力を残す。【白の薬剤師】の研究だ。そしてお前が、何年か前に始めた計画だ、奴はその被験者じゃないのか?」


 時が止まった。空気が重い。麻薙さんがやっと口を開いた。


「ええ」


 今回の敵はプラセボ代替計画で生まれた、【無色透明の薬剤師】よ、と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る