第6話 ラスボス登場

4/7 15:35 千葉県某駅 xxxx


「へえ、あいつが【黒の薬剤師】かあ」


 大きな商業デパートの屋上。安全柵を超えて縁に座って街を見下ろすと、広場のような歩道橋で火だるまを相手に戦っている女の子が1人。でもあの子なんて問題にならないほどの雰囲気をまとっている人がいる。それが僕には見えている。前髪を目元まで伸ばしている全身真っ黒の男。今回僕が戦う相手だ。彼は、しばらくぼーっと女の子の戦いを見た後、興味なさそうにその場を離れていく。


「あっ、あいつ戦いもせず帰っちゃうのか。せっかく能力者あてがってもらったのにさー。あいつら燃えちゃうから、一回使ったら終わっちゃうんだよなー」


 楽しみにしていた戦いが見れず、退屈しのぎに足をブラブラさせて気を紛らわせる。僕は上下白のケーシイを着て、その上にフード付きの白衣を着ている。そして少しだけ癖の入った白銀の短髪。【黒の薬剤師】とは、何もかもが対照的だ。服装からして真反対。まったく。10年くらい前の漫画でも見てるようだな。彼のことを考えると、自然に口元が緩む。ポケットから薬瓶を取り出し、中の黄色い錠剤を出して、1粒飲み下す。


「メカニズムは違うけど、僕と同じ副作用なしで能力を使える者。【白の薬剤師】の成果物、戦うのが楽しみだな。ところでさ、もう1人くらい誰か適当な能力者を見つけて彼にぶつけてみてよ。まだ実力を見れてないからさ」

「承知したぞ。探しておくとしようか。能力をリスクなく使いたいと願っている奴は掃いて捨てるほどいる。利害の一致も問題ないだろう」


 後ろで老人が話しかけてきた。彼が僕の案内人。【緑の薬剤師】を夢見たなれの果てだからキミドリって呼んでいる。


 「研究」が【緑の薬剤師】の職能だけど、【白の薬剤師】と決定的に違うこと。


 それは人を兵器にする研究をしているということだ。現【緑の薬剤師】は魔薬の投与スケジュールレジメン管理と薬剤投与量の個別調整により、均一な能力を持つ兵隊をつくる研究をしているとか。この研究が成功すれば、一般人を兵隊としての能力者にすることがより簡単になる。世界のパワーバランスがまた変わるだろう。対する彼の研究は……。なんだっけな。忘れた。一度聞いたが大したものではなかった。


「うーん、ええと」


 考え込んでいると老人が話しかけてくる。


「おい、光学(こうがく)よ。どうだ? 奴は殺れそうか?」

「はは、どうだろ。実際戦ってみないと何とも言えないなあ。でも、まあ。いけるんじゃないかな、とりあえず僕は次の仕事をするよ」


 今までは僕には敵なんていなかったんだから今回も楽勝だろう。同種の能力。戦うのが楽しみだ。

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