第5話 新君との関係性は同級生

4/8 13:40 麻薙現代 麻薙研究室


「契約は成立。じゃあ俺は帰る」


 と新君は研究室から出ていった。


「じゃあ明日からよろしくねー」


 私は適当にヒラヒラと手を振った。もちろん新君は振り返りすらしない。古い友人としては、できれば彼の力は借りたくなかった。でも。そうは言っていられないのだ。敵はすぐそこまで来ているし、彼じゃなくては倒せない。


 じーーーーーー。


 視線を感じそちらを向くと、色々と聞きたそうにしている都の姿が。新君がいる時は嫌悪感を露にしていたが、いなくなった途端、好奇心と少々の不満の表情。顔を見るだけで一目瞭然だ。おそらくこの大学、というか同年齢で1、2を争うレベルの容姿を持った彼女がキラキラした瞳でこちらを見つめている。


 天真爛漫。生命の源みたいな彼女にこんな表情をされたら、同性の私ですら、質問を拒むことはできないだろう。


 先程都に相性ピッタリと言ったが、内心は少し不安だった。都はおそらく、私の任務は忠実に遂げようとするけど、新君はそれを馬鹿にしそうね。深いところでは信頼が結ばれそうな感覚はあるけど……。それは何となく、というもので確証はない。私は機構の中でうまく立ち回っているとはいえ、信頼の構築において自分が長けているとも思えない。


 結論を出す。新君と都の気が合うかは正直五分五分。ただ、今回の任務には2人とも不可欠だ。余計な介入をするより、私は事実だけを答えた方がよいか。


「どうしたの、都。うずうずしちゃって」


 微笑みながら、できるだけ平坦に私は言った。


「天候すら操る【黒の薬剤師】。何者なんですか? 彼は」

「大学の同期」

「元同級生、ってことですか?」

「そ。まあもっと正確に言えば研究室の同期ね、(魔)薬物動態学研究室の」

「な、なるほど。ところで何で魔にカッコをつけたんですか?」

「入るまで本当は何の研究をしているか知らなかったからよ。一般学生にももちろん隠されていたわ。先生と、私と彼で生徒は二人だけの研究室。先生も今の私と同じような扱いで大学にいたからね。まあえーと、生徒は途中で増えたり減ったりしたか。でもまあおおむね二人だけだったわ」


 都は増えたり減ったりという言葉に顔をしかめたが、結局そこには言及してこなかった。


「研究内容がわからないまま麻薙さんが研究室を決めるなんてちょっとびっくりですね」


 何となく不器用に話題をずらしたのだろう。


「呼ばれたのよ。最初は成績で選んだのかと思っていたけど、素質ってやつを見られていたようね。先生はたしかに未来の能力者を見つける目があったと思うわ」

「あった……」


 この子は意外と勘の鋭いところがある。そして、せっかく話題をすり替えてくれたが同じような場所に戻ってきてしまった。


「今はもうこの世にはいない。殺されたわ」


 都はそれ以上何か言うことはなく、黙って書類整理を始めた。平静を装ったつもりでいたが、幾分冷たい響きになってしまったのかもしれない。ふう、とため息をついて言った。


「話が前後するけど、研究室は途中で解体されて私と先生は、色々な研究室を立ち上げたりと、転々とした後に、別の大学、つまりここね。ここに新たな研究室を立ち上げた。色々苦労したわ。新君の方は、研究室解体のタイミングで処刑命令が出ててずっと命を狙われていたみたい。何度も殺されかけてるわ」

「あの人が、ですか?」

「私よりむしろ彼の方が大変だったわね。能力についても全貌がわからなくて手探りだったから、当時は今ほど強くなかったし。というか能力すら出せなかったからね。裏で色々と手を回して、海外に彼を送ったのは彼に生きていてほしかったからなのだけど、新くんの覚醒と海外での噂を聞いて考えが変わってしまってね。それで日本に呼ぶことにしたのよ。もちろん機構では処刑命令が出たままだから、色々と厄介だったけど」


 本当に厄介だった。外部アドバイザーという立場で機構本部の処刑命令を取り消すなんて並大抵のことではない。だが、老人たちを宥めすかし、貸しをつくり、金を握らせ、結局新君を日本に迎えることができた。彼の処刑命令はまだ取り消されていないが、今回の敵を倒すことによって留保されることになる。


 日本の能力者を統括している魔薬品超常機器総合機構。絶大な影響力を持ち、すでにこの国の実権を掌握しているに等しい。その機構にとっても脅威なのだ。今回の敵、【無色透明の薬剤師】は。

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