第3話 私の最低な相方誕生
4/8 13:00 西永都 麻薙研究室
ドアの外で音がする。
はっくしょん。はっくしょん。
クシャミが止むとドアが開いて、全身黒ずくめの某アニメの犯人が入ってきたのかと思ってしまった。
少し細身でスマートな体系の彼は黒いマスクを顎へ下げている。前髪が長くて目のあたりにきているためよく見えないがくしゃみで髪の毛が浮き上がった時に一瞬見えた。顔立ちは整っているが目に大きなクマがある。昨日の嫌な男である。その姿はこの快晴の天気には明らかに不釣り合いだった。
まるで毎日会っている友人のような気軽さで麻薙さんが声をかける。
「新(あらた)君、久しぶり」
「ああ」
「あは、全然変わってないわね」
「いや、変わったわ。むしろ変化しかねーだろ」
「お、反応してくれた。そうやって、ぶっきらぼうなふりするけどすぐお人よしのボロを出す。大学の頃と同じね。変わってないわよ。全然」
「くだらないこと、覚えてるんだな。お前こそ、まだ研究続けてるのかよ」
「ええ」
ニッコリ。なんだか麻薙さんの雰囲気が怖くなった気がする。少し気まずいな。
ゴホゴホっ。
彼はせき込んだ。私は思わず聞いてしまう。
「なんであなたが風邪ひいてるんですか」
「風邪薬が効かねーんだよ」
「そうじゃなくて、あなた先に帰ってたでしょう」
「ああ、それね。用意してもらった部屋の屋上にいたらいつの間にか寝てた」
「わ、私が戦っている間にあなた」
「? ああ。セーラー服はもう着ていないのか? コスプレ大学生」
「あ、あれは麻薙さんの指示で……!!」
「断ればいいじゃん」
私もまんざらではなく、鏡の前で、まだセーラー服でも全然いけるな、と思ったのは内緒だった。それを見透かしたようなセリフ。
「何度もそういう命令を受けてるんで諦めてるんです」
「あっそう」
聞いておきながら興味を失ったような口ぶりに私は苛立つ。
「早速仲良くやってるじゃない、いいことね」
「どこがですか。この人のせいで私は雨が降る前に敵を倒しきれなくて、服がビチョビチョになりました」
「この人のおかげで私はあの宗教信者達に勝つことができました、だろ?」
「?」
前髪男に訂正されたが意味がわからない。麻薙さんが間に入る。
「彼は代謝能力が異常に高くてね。現在確認されているすべての能力を依存なしに使用できるとされているの。そして、確認されていない未知の能力すらも使用できると。おそらくだけど、昨日の大雨は彼が降らせたのでしょう。念動力(PK)の使い手とは聞いていたけど天候も操れるなんてね」
「……そんな。それが【黒の薬剤師】の能力、伝説の化け物……」
「確認されている能力全部、というが最近は面倒だから念動力しか使ってないぞ」
「念動力なんて全く確認されていない能力なのに、面倒だからそれしかって……」
「雲は結構軽いからな」
「ただ、代謝機能が異常に高いせいで一般の薬の代謝ともなるとさらに早いの。そのため彼は薬が効かず割と病弱」
「え? うーん、それは本当に最強なのですか」
「ははは、身体能力の高い君とはかなり相性がいいと思う、仲良くしてね」
「え、ええええ、もしかして」
監視とは言われたけどまさか……。さらなる嫌な予感がする。
「そう。しばらくツーマンセルで一緒に共闘してもらうわ! 都が前衛、新君が後衛とサポート。海外から強敵が日本に現れたという情報があってね。新くん、都の護衛よろしく」
「こ、この人と連携できる気がしません……」
「あら?相性ばっちりよあなた達」
私の漏れ出た弱音は麻薙さんに即座に反論される。そして、退屈そうに割って入る黒い男の声。
「護衛ね。昨日の戦い少し見たけど、正直あれだけ強きゃ何が来ても逃げるくらいはできるだろ」
「に、逃げるってあなた」
自分の中で今までと違った沸騰しそうな何かを感じた。
「実は某国、某【薬剤師】が狙っているらしいのよ。彼女を。まあ私も狙われてるんだけどね」
「某ばっかりだな。調べついてないのか」
「なかなかしっぽがつかめないの」
「ふん、まだ言えないってことか」
「彼女は私の開発した薬剤の投与をしている」
「なるほどね、研究目的か。緑かな」
「それは知らないわ。でももう来ているそうよ。刺客。で、あなたもおそらく争いの火種。そして最強でもある。その二人が一緒にいれば話が早いってことね」
「断る」
宮台さんが即答した。私もできれば断りたい。はあ、と露骨に麻薙さんがため息をつく。その後すぐにニッコリとほほ笑んで言った。
「何かと生活も大変でしょう。報酬を弾むようにするわ。とりあえず一週間お願いね」
っくしょん。
「それはOKのくしゃみかしら」
「いや、明らかに違うだろ。話の流れ読めよ」
真っ黒な男は前髪の奥で恐ろしく嫌そうな顔を一瞬した後、数秒真顔に戻った。そして、シニカルな笑みを浮かべて言う。
「まーたしかに金は必要かもな。1週間くらいならOKだ。あとは、日本を発った時の援助の契約追加してくれるか」
「ええ、もちろんよ。新君が思っている以上に私は機構に根を張ることができたわ。必要な物資はいつでも送れるでしょう」
「ちょ、ちょっと待ってください2人とも私を無視して話を」
「都よろしくね」
麻薙さんの命令に近いよろしくね、に私には拒否権がなかったことを感じ取ったのだった。せめてもの抵抗に、私は2人に聞こえるくらい大きなため息をついてみせるのだが……。
「じゃ、よろしくな」
無慈悲な挨拶(トドメのいちげき)が、こちらを一瞥もせずに放たれるのであった。
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