願望メリーゴーランド

ボーリングの日から八日後の木曜日、僕は駅の改札口を憂鬱な目で見ていた。あの子を人ごみの中から探してみる。スマホの受信ボックスを確認する。僕の目が駅とスマホを交互に見る。何かをしていないと、自分の頭の中がいろいろな思いでぐしゃぐしゃになってしまいそうで......それでも、複雑な頭の中で僕は決意を固める。

今日は僕にとって大事な日なんだ。今日僕は、あの子に告白する.........。




あの子が人ごみの中から姿を現した。

万全の体制じゃないかもしれない、完璧じゃないかもしれない。でも賽は投げられたんだ。

「おはよう。すごい人だね」

僕は気さくに見えるよう。最大限本当の自分を隠す。

「そうだね~。ごめんね~待たせちゃった?」

急いで来たのか、彼女の額には汗が光り、顔は火照っていた。

「えへへここまで走って来ちゃった。汗すごいかも...ごめんね」

「いやいや、そんなことないよ」

「ありがとう。それじゃあ行こっか」

彼女が入口ゲートに歩き出した。ポニーテールの下に隠れる汗ばんだうなじに僕はドキドキして、自分の平生を保つために、ズボンをギュッと握る、その後慌てて彼女を追いかけた。

彼女と一緒に入口ゲートを抜けると、僕は脳内で予定を振り返る。

「まずはジェットコースターにでも並ぼうか?」

僕はとりあえず王道のモノを進める。

「えっ、私はのんびりいきたいな」

まあ分かってはいたけど、やはり彼女は気まぐれ屋さんだ。

「分かった。君がそれがいいならそうしよう」

「じゃあ、君は何に乗りたい?」

「うーん。じゃあメリーゴーランドとかどう?...............」














「おいしょっと」

僕はメリーゴーランドの馬にまたがろうとした。その時

「ねえ、それだったら回っているとき寂しいじゃん。あっちの馬車みたいなやつに乗ろうよ」

僕は少し動揺した。若い二人でそんなとこに座ったら、からだとからだが密着してしまうのでは、と考えてしまったからだ。

「えっでも、そこ小さくない?僕華奢じゃないし...」

「そんなのいいから!」

彼女は自分勝手だ。でも僕は彼女に嫌な印象を与えたくない。

「分かった。じゃあその馬車みたいなやつに乗ろう」

「いいの?!やった~!!」

勢いづいた彼女が僕の手を引っ張る。




プーーー!!!

メリーゴーランドにおおよそ似つかわしくないブザーが鳴る。幻想的な雰囲気がまるで偽物みたいに見えるからやめた方がいいのに、と思った。

ガン!機械の動く音がして、馬車は回りだした。

「あはは!結構速いんだね!」

彼女はまるで子供みたいに笑う。僕はやっぱりこの笑顔が大好きだ。

「ずっと見ていたいな.........」

僕は思わずそう呟いてしまった。

「え!?なんか言った?」

良かった、彼女に聞こえてしまうことがなくて。

「いいや。何でもないよ!ほんとに速いねこれ!」

遠心力か、彼女がわざと寄ってきているのか、彼女の肩と僕の肩が触れ合う。彼女の肩までの長さの髪が揺らめいて、トリートメントのいい匂いが僕の肺を満たす。

メリーゴーランドの中で回る馬車と、その前にいる二体の馬車馬。こんな感じでもいいから、彼女と一緒にいたい。ずっと君といたい。なのに...............

「いや~楽しかったけど、やっぱり短いね。乗れる時間」

そうか、彼女にとっては一瞬っだったんだ。僕にとっては一生モノだ.........

「どうする?もう一回乗る?」

僕は彼女に聞いてみた。

「いや、今日はいろんなものに乗りたいな」

僕は少し残念だった。

「じゃあ、次は何に乗る?観覧車はどう?」

「うーん...観覧車は最後がいいかな。次は...ジェットコースターに乗ろう!!」

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