ナイス・スペア

来週の水曜日,私はボーリング場の前でスマホを見ていた。あの子と一緒に遊ぶことができる、そのうれしさで居ても立っても居られなくなって、30分くらい早く到着してしまった。いくら周りを見渡しても、受信ボックスを更新しようとスマホの上で指をスワイプさせても、自分の求めているものは手に入らない。夏の蒸し暑さと直射日光が私の白い肌を刺激する。もう一度あたりを見まわすと、自分の目に黄色いワンピースが目に入った。気づけば僕はそのワンピースを着た女の子に夢中になっていた。まるで、全ての人を引き付ける横顔、風によってなびく長くてさらさらな髪、きれいな足、ワンピースからはみ出る薄ピンク色の肩、全部あの子の特徴だ。

「奇麗だ」

僕は思わず声に出してしまった。僕の顔がだんだん赤く染まってしまう。自分の顔をあの子に見られたくなくて、慌ててボーリング場の壁の方向に顔を向ける。

「おはよ〜って、大丈夫?おなか痛かったりする?」

彼女はそうやって心配そうに、僕の顔を覗き込もうとする。

「全然問題ない、大丈夫だよ」

僕は頑張って喉から言葉を捻りだす。この子には自分の弱い姿は見せたくない。僕は完璧な自分を演じようと頑張った。

 そんなことより早くあのバカップル早く来ないかな?もう汗かいてるとこなんて見られたくないのに。そう思っていると、

「おーい!お前ら早いな!」

遠くから希望の声が聞こえた。声がした方向へ視線を移すとそこにはバカップルがいた。

「あっ 二人ともおはよう!相変らず二人とも仲良しだね!」

別に気にしてはいないが、この子の誰にでも明るくて、裏表がまるでないかのような、そんなこの子が嫌いだ。

「じゃあ、みんなそろったことだし、さっそくボーリングしようぜ!!」

お前がそれを言うのかと思ってしまったが、この子と一緒に遊べるのなら別にいいや、今日の僕は寛大なんだ。


不安定な僕の自尊心は微かながら揺れ始めている。











ゴン!重たいボールが床に落ちる。スピードを持ちながら摩擦の少ない床を転がるボールが進む




「おぉ!!ナイススペアじゃん!!!」

拓哉(バカップルの彼氏の方)が僕よりも先に喜ぶ。

「別にライバルがいい点数とっても、お前にとって意味なくない? 逆効果っていうか...」

「いやいや、今は競い合ってるけど、俺ら普通に友達じゃん? 友達が上手く投げられたら嬉しいと俺は感じちゃうんだけど...」

「そうか......そうだよね。変なこと言ってごめん」

拓哉は不思議そうにこちらを見てきたが、僕らが話しているうちに、ゆきな(バカップルの彼女の方)が通算10回ガーターを決めたことによって、すぐに注目は逸れる。

気が付けばいつのまにか拓哉とゆきなのいちゃいちゃが始まっていた。

「もうゆきなは子供用の滑り台みたいなやつ使ったほうがいいんじゃね?」

「もう拓哉ー! 私もう高校生なんだよ! もうこどもじゃありませーーん!!」

遠目から見てもうるさい。ふと後ろを見ると、投げるのを待つ人のための椅子に、あの子が座っていた。あの二人をまるで保護者かのように優しく見守っている。

僕は折角のチャンスだ!と思い。僕はあの子のもとへ歩く。

「ふう、疲れたーー」

僕は彼女に聞こえるように言う。

二人を見ていたあの子の視線がこちらに向けられる。何気なく髪を手で梳かす仕草が奇麗だ。

「お疲れ様。うまいんだね、ボウリング」

「ありがとう。ボウリング楽しめている?」

「うん。とっても楽しいよ」

「休みの日は何をしているの?誰かと一緒にお出かけとかする?」

「ううん。普段は一人で過ごすことが多いかな」

「そうなんだ...えっと......」

ダメだ。なんかいい感じに話せる話題はないのか?自分を立派に見せようと、いや、かっこつけようとするたびに、僕は余裕をなくしていく。僕は焦った。

「ねえ............」

沈黙をあの子が破った。

「今度さ......二人で遊びに行かない?」

えっ......僕は一瞬動揺した。

「えっ僕と...何で...」

僕の言葉を遮るようにあの子が口を開いた。

「だめ、かな?」

「そんなことない!うん!行こう!!」

僕は思わず大きな声を出してしまった。僕はこのチャンスを逃したくなかったんだ。

「じゃあ今夜電話してもいい?」

僕はわずかに残った理性をフル活動させて言った。

「全然大丈夫だよ!楽しみにしているね」

あの子は嬉しそうにそう言った。

これはチャンスだ......絶対に逃がしたくない。



この子には僕だけを見てほしい。僕に夢中になってほしいんだ.........

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