第6話 バレてた。なら……

Side:ダンジョンマスターな主人公


――村人が逃亡の準備を始めた


村の監視を命じてから大体2週間。彼らの行動に変化があったのは、行商人らしき人物が村を訪れてすぐだった。


どうやら監視の目はバレていたらしい。間抜けな話だが、まあ所詮無印のゴブリンだしな。仕方がない。



村人たちが逃げようとしていると報告を受けたのは夜中。

集めた情報を元に彼らが日の出と共に移動することを予測した俺は、静かに目をつむる。


「……ゴブリン軍団。」


正直なところ、あの村は放っておくつもりだった。

彼らが俺たちの脅威にならないなら、監視を続けつつ水面下で力をつけていたはずだ。


そういう意味では、彼らの行動は正しかったのかもな。ダンジョンが完成する前に、ここを発見できるきっかけを作ったのだから。


だが、だからこそ……”敵”が来るまでのタイムリミットができたからこそ、貴重なエサを見逃す訳にいかない!


悪く思うな。


「テンゴブたち精鋭を中心に、あの村を蹂躙しろ!」


「「「ギャギャッ!!」」」


こうして、俺と数匹の護衛ゴブリンを除き、ほぼ全ての戦力が移動を開始する。共に行きたいところだが、コアがあるからな。

コイツと一蓮托生な以上、俺も最後の砦として残る必要がある。


問題は無い。ゴブリンは総勢360匹。そのほとんどがレベル1だが、周辺のスライムや野良ゴブリンを倒しレベルを上げていた頼りになる精鋭たちがいる。

10匹がレベル5で、テンゴブはレベル8だ。


――――――――――――――――――――

テンゴブ(ゴブリン)

レベル:8

スキル:肉体性能強化Ⅲ 長剣術Ⅱ 強健Ⅱ

――――――――――――――――――――


思念を通す力の応用で、ある程度彼らの視界を共有することができる。


予期せぬものとはいえせっかくの戦いだ。

順調に進むよう、神にでも祈っておくか。






◎◎◎

Side:とある村の村人


「なんだ!?何が起こってるんだ!!」


明日への備えを済ませ、体力をしっかり回復させるために寝床に入った頃、異変を感じた。


警戒していたからこそ感じた小さな異変だ。


扉の隙間から外を見ると、そこには村に向かって歩き進む影。ゴブリンだと気がつけたのは、やはりこの状況だからだろう。


「みんな!起きてくれ!ゴブリンが来たんだ!!」


村は小さい。おれが大急ぎで村中で叫ぶと、すぐにゾロゾロと家から村人たちが出てくる。ここまではまだよかった。しかし


「おい、どうするんだ?」

「すごい数よ、あんなに多いなんて……」

「無理だ……無理だぁ!」


元々荒事に慣れていないおれたちだ。

目を見合わせてアワアワ言っているうちに、ゴブリンたちは村の目の前まで来てしまった。


「グギャッ」


そして、先頭のゴブリンの、軽い合図。

手が下ろされたのと同時に、地獄が始まった。


まず、村一番の怪力を誇る、ゼフが殺された。

狙い撃ちだった。ゴブリンの指揮者が直々に殺した。


あれがゴブリンキングなのか?

体格は変わらないが、動きが違う。


そんなことを考えているうちに、見知った顔は殺されていく。


固まって動けない者、這って逃げようとする者、様々だが、ゴブリンたちは容赦なくその命を刈り取っていく。


「あぁぁ……助けて……」

「ミーナ!起きて、ミーナ……っ!!」

「……………」



「なんで……こんなことに………」


あたり一体は血の海に染まっている。


分かっていたんだ。初めから、正面から戦って勝ち目がないことは。こっちは武器と言っても、鉄が使われているようなまともな剣を持っているやつは数人だ。


それだって、きちんと扱えるわけじゃない。それだけ戦い慣れていないんだ。はぐれのゴブリンの1匹や2匹ならともかく……。だから、故郷である村を捨てて逃げようとした。


「みんな……」


両親。隣人。村人全員が顔見知りで、家族で、手を取り合って生きてきた。

大きな夢はなかったが、小さな幸せを願った。それだけなのに。


悲鳴は徐々に聞こえなくなってきて、ゴブリンたちの笑い声が大きくなってくる。


「ごめん……」


おれにもっと知識があれば。

ゴブリンの斥候を見つけた時点で逃げる判断をしていれば。後悔は尽きない。


「どうか……」


1人でも多くの家族が、逃げられますように。


その言葉は、刈り取られた首には発せない。


こうして、ひとつの村が滅んだ。

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