楽園の騎士③

 勇者の末裔ハルートが血だまりに倒れ伏した後。

 ライトアーサーの前に立ち塞がったのは、魔力の暴風をまき散らす吟遊詩人アイアスだった。


「……格落ちはしないと。かの、勇者の末裔と自身を比較した上でそう言いましたか?」


 前回の邂逅時には、取るに足らぬと視線さえ向けなかった路傍の石。

 それが今意思を持って立ち向かってくることに、ライトアーサーは微かな苛立ちを覚えていた。


「彼の理解者を気取っているというのに、彼の横に並ぼうと? いささか、分不相応な言葉に思えますが」

「本当にそうかはこれから分かることだろう?」


 ひらりとアイアスが指を走らせる。

 指揮を受けた演奏者たちが音色を響かせるようにして、魔力が蠢いた。

 辺りに吹き荒れ、理性を失っていた魔族たちを牽制していた音のヴェールが収束する。


「ほお? いいのですかね、吟遊詩人よ。それでは……」

「もちろん、その通りだ。あの三人に任せるよ」


 先ほどまでは、瞬間的に対応したアイアスの手で魔族たちが押さえ込まれていた。

 しかし今は拘束を解かれた魔族たちが、魔剣を片手にギラリとエリンたちをにらんでいる。


「この……!」


 手に握った突撃槍を構え、シャロンが砲撃機構を展開する。

 友人の攻撃準備に、エリンが鋭く反応した。


「シャロン直撃はだめ! その出力だと殺しちゃう!」

「分かってる!」


 収束させた魔力を、シャロンは射線を下げて地面にぶちまけた。

 吹き上がる砂煙が魔族たちから視界を奪う。

 そんなものは関係ない。目が見えずとも、やたらめったらに振り回すだけで相手を殺せる。魔剣とはそういう武器なのだ。


「ナメないで!!」


 しかし、前に踏み込んだ魔族たちを待っていたのはさらなる迎撃だった。

 先んじて踏み込んだエリンの刀が、砂煙を断ち切り魔剣を弾き飛ばす。


 ソードエックス家で磨き上げた技巧は、双方の得物の質に大きな差がある場合も問題なく作動する。

 自分の武器には最小限の負荷で、効率的かつ的確に敵から戦闘力を奪う。


「今のちょーイイカンジ♡ その調子でお願いね♡」


 そうして魔剣を取りこぼした魔族たちの体を、クユミが操るワイヤーアンカーが絡めとった。

 アイアスが一工程で行った拘束を、三人がかりとはいえ、エリンたちは驚異的なスピードでこなしていく。


(ほお……量産型とはいえ魔剣を弾いた?)


 アイアス越しにその光景を見ていたライトアーサーは、少しの驚きと歓喜を抱いた。

 魔族の本能を活性化させるという目的のために構築した魔剣ではあるものの――そもそも、彼が創り上げる『魔剣』は大前提として圧倒的な切れ味と魔法的攻撃力と、その他武器として求められる性能を高水準で備えるはずだった。


(勇者の末裔の教え子なだけはありますね……三人とも、警戒度を引き上げなければなりませんが)


 敵に対する評価を修正するライトアーサーは、直後に魔剣を振るった。

 縦一閃の斬撃が、彼の体を押し潰そうとした目に見えない衝撃波を叩き斬る。


「やっぱ見えるか……!」

「当然です。大気の揺れを見落とすほど、この目は霞んでいません」


 アイアスが操る音波が、波濤となってライトアーサーへ襲い掛かる。

 それらは魔剣が閃くたびに断ち切られ、霧散する――はずだったが。


「紅き音階の時間だ!」

「これは……!」


 確かに斬り捨てた音波が、意思を持っているかのようにライトアーサーを追尾する。

 目には見えない衝撃が次々に魔剣へと直撃し、手の中でピシリと嫌な音を響かせた。


「言ったはずだ! 射程距離は理論上無限! よって追尾は文字通りに永続!」

「斬り捨ててもなお、ですか……!」


 アイアスが腕を振るうたびに生み出され、疾走する音の砲撃。

 周囲には甲高い、世界そのものが軋みを上げているような不快な音として伝達されるそれは、敵対者には内側から存在そのものを壊す凶器である。


 地面を爆砕しながら高速で回避するライトアーサーだが、無制限に追尾する音波は彼を取り囲むようにしてうねり、逃げ場を奪う。

 独自構築の魔法『ラウンドロビン・コンツェルト』の脅威性がここで明らかになる。

 永続的な追尾性というのは表面的な要素に過ぎず、本質的な強みは、アイアスの指示さえあれば無限に動き続けるという、強固極まりない盤面形成・継続能力。


「砕け散れよ! ご自慢の魔剣ごとなあ!」

「……厄介な力ですね」


 ヒビの入った魔剣を投げ捨て、ライトアーサーは足元の木の枝を蹴り上げ手に掴む。

 魔剣に変換する暇など与えるか、とばかりにアイアスが音波を殺到させた。

 それは先ほど宙に捨てられた一振りの魔剣を瞬時に砕き、そのまま魔族の黒い体に襲い掛かり――




「――ですがそれでは、彼と同等と言い張るには今ひとつ足りません」



 両断だった。

 木の枝から刹那のうちに変貌を完了させた魔剣。

 その刃が閃くと同時に、『ラウンドロビン・コンツェルト』の音波が両断され、そのまま溶けるように消え去り、無音になった。


「何!? 向こうどうなったのエリン見えない!」

「えっ今の何!? まさか音を斬ったの!?」

「ちょ~っと、ヤバそ~かも~……」


 外から見ていたエリンたちはそのように理解したが、実情は違う。

 対応される側となったアイアスはすべてを瞬時に理解して、絶句した。


(い、今、のか!? バカな! さっきまで魔剣に、そんな能力なかったじゃないか!)


 絶句するアイアスの視線の先で、ライトアーサーはその手に握った新たな魔剣をゆらりと突き出し、見せつけるように掲げた。

 赤いラインが脈打つその黒い剣は、確かに微細な振動を発している。


「新作です。大気中を伝播する音の波動、そのものを斬るのは容易いことですが……それ以上に、接触した音波に対して自動で真反対の音波を生成し、ぶつけて消滅させるように


 アイアスが先ほどまで構築していた戦闘プラン。

 それは時間稼ぎのため、絶えず音波を生成し続けライトアーサーの魔剣を壊し、互いに決め手のない状態に持ち込むことだった。

 しかしそれは、前提から覆された。


(こ……こいつは、その場で魔剣の性能を組み替えられるっていうのか!?)


 再確認。

 ライトアーサーが創り上げる『魔剣』は大前提として圧倒的な切れ味と魔法的攻撃力と、その他武器として求められる性能を高水準で備える。

 それだけの武器を絶えず量産できる――だけでは、ない。


 基礎スペックの万遍ない高さと継戦能力まではハルートと似通ったものがある。

 しかし大きな相違点である、強烈なまでの万能性。

 瞬間瞬間で必要とされる権能を組み替え、自在にカスタムできる。

 これこそがライトアーサーを絶対的強者たらしめている権能。


「名づけるならば、そうですね……『厳粛なる時間ネガ・オベーション』とでもしておきますか」


 アイアスの魔法一つを完全に無効化する魔剣を片手に、ライトアーサーは一つ息を吐いた。


「それで、他に何か出し物はありますか?」

「……ッ! 舐めるんじゃあないッ! 【紡ぐは嬉遊曲】【狂奔の号令】【輝く星を汚し貶めよう】【人々の大地に堕ちるがいい】──発動driiiive!」


 直後に発動するは、アイアスが最も得意とする極小の転移陣連続発動魔法『レシテイション・ディヴェルティメント』。

 対象をミクロに分解するという、防御不可能な絶対的破壊の象徴。


「蒼き旋律の時間だ!」


 放たれた攻撃をライトアーサーが一太刀に切り伏せようとする。

 しかしその刹那、無数の極小転移魔法に接した魔剣が端から分解された。


「これは……!」


 流石に予想外だったのか、半ばまで食い荒らされた魔剣を放り棄ててライトアーサーが距離を取る。

 対象が物質であるのならアイアスの魔法は無敵と言っていい、しかし。


「なるほど……私の評価は明確に誤っていました。吟遊詩人アイアス、あなたは確かに、ハルートに次ぐ脅威ではありました。しかしそれでも甘かった」


 人類の天敵がその雰囲気を変貌させる。

 けだるげな様子などなく、わざと見せていた余裕も消えた。


「あなたへの警戒レベルを三段階引き上げます。もっと前にそうしておくべきでした、自分の愚かさには嫌気が差しますね」


 そのまま彼は、袖の下から射出した小さな金属棒を握り、魔剣へと変貌させた。


「故に無視しません。油断しません。気を逸らしません。あなたを完全に無力化するまで絶対にあなたから目をそらしません」

「……こりゃまた熱烈なファンがついちゃったなあ、困るぜ」


 軽薄な言葉と共に、アイアスは余裕たっぷりに笑みを浮かべる。

 しかし、内心では冷や汗をダラダラと垂らしているのが現状だ。


(ったく冗談じゃないぜ、上級魔族の中でも上澄み中の上澄みなんて)


 一度目の接敵、先ほどまでの戦闘、これらの手材料を考慮すれば間違いなく勝てない。

 アイアスは自分の評価を極めて冷静に、いっそ冷酷と言っていいほどに行っている。

 被る仮面を選択し、歌う言葉を選別する客観的視点がなければ吟遊詩人は名乗れない。


(絶対に無理だ。戦えるわけがない。僕って魔法は得意だけど、本物じゃないからねえ)


 魔法を習い始めた時は、自分が世界で最も強いのだという全能感があった。

 しかし学生時代の友人らの方が、戦士としては強かった。

 挙句の果てには卒業後にハルートが組んだパーティの面々は、同級生たちすら一蹴するほど隔絶した存在だった。


(上を見たらキリがないなんて、嫌と言うほど思い知ってるんだ。この魔族はそういう枠組みにいるやつだ。僕が戦うなんてあってはならない)


 そんなことは分かっている。

 軽薄な態度に隠した冷静な自分が、弱くてみじめな自分を糾弾し続けてきたもう一人の自分が、分析と呼ぶのもおこがましい単なる事実の確認なんてとっくの昔に終えている。


 だけど。


(――だけど! 親友に任されたものを放り投げてて逃げるのは、もっとあってはならないことに決まってるッ!!)


 結局、彼がこの場に立っている理由はそれだけだった。

 彼が自分を助けようとしてくれたのなら、同じだけの想いを返したい。

 それが友情の証明だと思うから。友達が頑張っているのなら、一緒に頑張りたいから。


 薄っぺらい意地と笑うのならば笑えばいい。

 だが、いくら笑われようとも。


(目標は瞬殺されないこと! この場を譲るわけにはいかないんだよねえ! 相手が誰であろうともさぁッ!!)




 ◇




 ハルートが倒れ伏して数分間。

 アイアスがライトアーサー相手に、拮抗状態に持ち込んで耐えた数分間。

 それが過ぎた後。


「がっ……」


 べしゃりと地面に倒れ伏したアイアスの体には、無数の浅い切り傷があった。

 そこから回った毒素が、彼の体を蝕み、ついに戦闘力を喪失させた。


「厄介な力でしたが、対応は可能です」


 彼の目の前で、ライトアーサーが半分ほど欠けた魔剣を投げ捨てる。

 魔族の体や衣服には傷一つなく、消耗した様子も見られない。


 周辺には、打ち棄てられた無数の魔剣。

 それらは『レシテイション・ディヴェルティメント』の効果を受けた瞬間に破棄された魔剣たちだ。


「相性が悪かったですね。武器を容易く壊せるのが強みなら、武器を容易く創り出せる私相手に通用しないのは当然です」


 いかなる盾も貫く無敵の矛があるのならば。

 無敵の盾で対抗するのではなく、無数の盾で身を守ればいい。

 だからこそ時間はかかったものの、結果としてライトアーサーは距離を詰め、攻撃を当て、そして勝利していた。


「さて……」

「通さないっ!」


 アイアスから視線を切ったライトアーサーが、魔族たちの塵殺に動き出そうとした刹那だった。

 かっとんできた金色の風が、その手に握った刃を光らせる。


「元気なのはいいことですね」


 音を置き去りにした一閃だったが、魔剣は完璧に迎撃の軌道を描いていた。

 接近戦を挑んだエリンを、ライトアーサーの返す刀が両断する――はずだったが。


「ま、だぁっ!!」

「!?」


 至近距離でエリンが身をよじり、ライトアーサーの斬撃を回避する。

 そのまま彼女の腕がブレ、二の太刀・三の太刀を打ち込んだ。

 とっさの反応で防御こそ成功したが、既に向こうは次の動作に移っている。


「もうその動きは覚えたんだから!」


 エリンの太刀が魔剣を打ち払う。

 明らかに、読みの精度で負けている。完璧に、一方的に読み切られている。

 瞬く間に防戦一方の状態に押し込まれたライトアーサーは、そのからくりをすぐに見抜いた。


(これは、模倣――この短時間で私の剣をここまで真似た!? なるほど、魔眼持ち以前に剣の才覚が卓越しているというわけですかッ)


 切り結ぶエリンの目は、明確にライトアーサーの動きの起こりを見抜いていた。

 それは単純な反射ではなく、絶対的と言っても問題ないレベルに昇華されたパターン解析による未来予測。


 アイアスが必死に防戦を展開する間、エリンが加勢に行かなかったのは、追いつけないからではない。

 ただ刃を研ぎ澄ましていた。実力差を理解していたからこそ、彼女は迅速かつ最短でその差を埋めるために、アイアスという強者に対してライトアーサーがどう動くのか、どう戦うのかをつぶさに観察していたのだ。


「面白い……! 勇者の末裔がその資質を高く評価しただけはありますね!」

「高く評価されてるのは嬉しいけど! それはセンセが勇者の末裔だから嬉しいんじゃないっ!」


 空中に幾十幾百の火花が散る。

 目にもとまらぬ両者の攻防が、太刀と魔剣が交錯するたびに散る戦場の華。


「ほら、ざこお兄さん立てる~?」


 エリンが完全にライトアーサーを釘付けにする間に、クユミとシャロンはうつぶせに倒れているアイアスの体を起き上がらせていた。

 既に村落の魔族たちはすべて魔剣を奪われ、ワイヤーで拘束されている。


「うるっさいな……戦力差考えるとよく保ったほうだろ……」

「まあ、それはそうね」


 シャロンの言葉には、少なからずの尊敬の念がこもっていた。

 実際問題、ライトアーサーと一対一で対峙して、数分稼げる人間はそう多くない。

 恐らく、国の精鋭部隊フルメンバーを投じて行うべき任務だろう。


「それよりあの子、持ってたの普通のカタナのはずだろ……なんで魔剣とここまで打ち合えてるんだ……?」

「ああ、それはね~♡」


 アイアスの問いに、ちらりとクユミがシャロンを見た。


「この子のバカみたいな量の魔力を使って、ちょーぜつ強化してあげたからだよ♡」

「クユミ、他に言い方はなかったわけ?」

「あはは♡ ごめんごめ~ん♡ ……あ、いや、結構怒ってる? ごめんってば~♡」


 笑顔でビキバキと青筋を浮かべるシャロンに、クユミは頬を引きつらせた。


「ぐっ……!」


 その時、エリンがうめき声をあげて数歩後ろへと下がった。

 見ればライトアーサーが両手に魔剣を持ち替え、その赤い瞳を滾らせている。


「今、あたしの知ってる流派の動きが13種類も出てきたんだけど……! ほんっとうに、何でもありだねあなたの剣術は……!」

「それはこちらの台詞! よくぞこの短時間で、そこまでの成長を! 驚嘆に値しますよ――しかしまだ! まだ真なる領域にはたどり着けていない!」


 二刀流に切り替えて攻勢を増したライトアーサー。

 だが彼は踏み込もうとした後、不意に動きを止めてエリンの向こう側を見やる。

 視線の先には女子二人に支えられ息も絶え絶えの詩人がいた。


「……なんだよ」

「いえ。威勢よく出てきた割には、すっかり傍観者ですねえ吟遊詩人殿」


 ライトアーサーは魔剣の切っ先を地面に向け、アイアスに対して嘲るような声を投げかけた。

 一瞬だけムッとした後、詩人はすぐに余裕の表情を浮かべる。


「まあほら、よく思い出してくれよ。僕ってばハルートの親友だろ?」

「そのようですね」

「だから支え合う関係っていうのを目指しててさ……今回は違うじゃん? 時間稼ぐのが仕事じゃん」

「時間を稼いだところで、何が変わるのですか? 単なる回復力に期待しているのなら……」

「違う違う、全然違うよお前」


 今度はアイアスが、相手の無知を嗤う時間だった。

 何も知らないんだな、何も気づけていないんだな、とアイアスは侮蔑を込めて唇をつり上げる。


「あいつにとって最高の癒やし手は決まってるんだ。専属みたいなもんなんだよ。でも今は、距離が遠くってさ……だから、そういう時にこそ、離れた人のことを教えてあげるのが吟遊詩人の役目ってワケ」


 ハルートにとって最高の癒やし手――すぐに理解したエリンたちがハッと表情を変える。


「何が言いたいのですか」


 ライトアーサーの問いかけに、詩人は静かに空を見上げた。


「歌は人を媒介として広がるんだよ。だからきっと、彼女の耳にも届く」

「……?」


 つい先ほどだ。

 先端が開かれた直後、アイアスは無制限に追尾する音波の魔法『ラウンドロビン・コンツェルト』を発動した。

 その最初に、試し打ちのように見せかけて、文字通り




『君を追放した金髪の外見完璧中身どん底のアホが死にかけてる! だから蘇生頼んでいいかな、本人も望んでた! 位置座標は──』




 それはライトアーサーだけが知らない、全世界の人類が聞き取った言葉。

 全人類に届けば彼女にも届いているだろうという、アイアス特有の雑すぎる計算から繰り出された秘密のお願い。

 もしもライトアーサーに味方がいれば、聞き取った言葉を教えてやれただろう。


 数秒の沈黙を挟んだ後、魔族はびくと肩を震わせた。

 膨れ上がる気配。突き刺さる殺意。

 彼はそれを知っている。


「ま、さか」

「もう遅いぜ、ライトアーサー。会ったことないけど、どんだけ離れていようとも、座標を元にした発動術式の構築計算を彼女なら数分あれば終わらせてるはずだ――何せあいつが認める最強のヒーラーなんだからさ」


 アイアスがぱちりとウィンクをした。

 その直後だった。



「吹き荒べ、涜神の嵐ッ!!」



 飛び込んできた光が、ライトアーサーの視界を埋め尽くした。




 ◇




「いや本当に今ので確信が持てるのか?」

「はい! 間違いなくハルートさんのことですよあんなの!」

「中身がどん底のアホというのは、正直印象とは異なりますが」

「私もこの間まで知りませんでしたけど、全部知ったうえで思い返すと――あの人本当にアホです! オタンコナスなんです! ……そんな人だからこそ、こうして、助けてあげたいんです」




「だから届いて、私のおもい――【行くは旅路】【人々のよすが】【我は永久なる先導者】【紡がれた希望に集うがいい】……発動driveっ!」




 ◇




 とっさに防御体勢をとったライトアーサーの体が、片腕を根元から消し飛ばされながら弾かれる。

 その手の中にあった魔剣は、切っ先から柄にかけてなに一つ残らず粉々にされた。


(あり得ないッッ)


 今飛び込んできたのは、魔剣を柄の根元から消し飛ばしたのは。

 先ほどこの手で断ち切ったはずの、世界をいつか救う極光に他ならず――


「どうしたライトアーサー。いつも通りに笑えよ。俺が地獄から戻ってくるなんて、いつものことだろうが」


 先ほどまでよりずっと、ずっと眩しい救世の光。

 ズタボロの肉塊だったはずなのに、世界を支配しているのは自分とでもいうような不敵な笑み。

 間違いない。

 状況的にあり得ずともライトアーサーの魂がそう断定を下している。

 この男は先ほど仕留めた最大の理解者にして不俱戴天の仇である男。


「どうやって、まさか黄泉帰ったとでも……!?」

「違うなあ全然分かってねえなあ!! 死んでねえんだよ、死なないんだよ!! 何故なら――」


 衣服を血に濡らしながらも五体満足で健在。

 片手には光を収束させた剣。

 背に庇うは親友と教え子たち。


 そんな決戦場の中で。

 ハルートは、己の仇敵を見据えてニヤリと笑った。




「――彼女の愛がある限り、俺は不死身だ!」







■■■

一昨日3/25に本作の書籍版が発売されています

ぜひ書籍版もよろしくお願いします

イラスト半端なくいいです

ハルートがそりゃこんな顔してたら普段の言動を見た後に勇者ムーブタイムされたら人の脳は壊れまくってしまうよなと一緒に頷きましょう


特設サイト

https://over-lap.co.jp/narou/824007636/Default.aspx


各種特典情報まとめ

http://blog.over-lap.co.jp/tokuten_kamaseyaku1/

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