Case3-39 少女

「構えて下がれ! 扉を囲んで距離をとれ!」


 騒がしく人が動き回っている、その気配を感じたと思いきや、今度は全身真っ黒の武装した男達が四、五人、なんと少女の位置からでも確認できてしまうほど後退してきたではないか。

 見つかる!――角端により身を縮こまらせ、顔を膝にうずめ、今できる限りに隠れる少女。

 だがそれはいらぬ心配であった。彼らは全員、鉄扉にライフル銃を向け、意識を集中させており、少女の存在に気づく者など一人もいなかった。


 彼らは既に、について認識を改めていたのだ。

 大きくなっているのではない。近づいてきているのだと。


 だがそのことに果たして意味はあったのか……。


 次の瞬間――全てはほんの数秒の出来事であった――。


 ――大砲だと聞きまがうほどの、強烈な衝撃音――それと同時に吹き飛ばされてきた瓦礫がれき鉄扉てっぴが、少女の視界にいた男達をまとめて圧殺あっさつした。

 ――「撃てえ!!」電撃をともなったライフルの連射音があちこちで騒ぎ出し、フロア内に止めどないフラッシュが飛びい始める。

 ――顔を埋めたまま、すぐさま耳まで塞ぎ、この現実を拒絶する少女。

 ――しかし、塞いでなお、重なる連射音の合間からその『うなり』が耳に届いてきた。


 ――悪臭が漂ってきそうな程に荒々しく、そして沸々ふつふつと、まるでいきどおりを蓄えているかのように禍々まがまがしいそれは、おそらく、通常生きていては出会うはずがないもの。怪物か 化物か 魔獣か 何とでも言える、獣を超えた何かの唸り声。それが聞こえてきたのだ。

 ――だが、それも束の間であった。唸りは不意に、変化を遂げた――。

 ――たけび――超獣ちょうじゅうの、怒りがぜた。

 ――むごたらしいまでの破壊音が、滅多矢鱈めったやたらにまき散らされる。ライフルの音も、男達の悲鳴までも、何もかもが、またたく間に一掃されていった……。


 残ったのは破壊音のみ。それは収まらぬ怒りの音。

 最後にして、超獣はそのぶつける矛先を失った憤りを喉奥に掻き集めると……一発――


 ――絶大なる咆哮ほうこうを解き放った。


 その威力は、まさに凄まじく、少女の全てを、踊り場の全てを揺るがし、よもや押し潰そうとするほどであった。

 もはや「声」の範疇はんちゅうなどではない。この一発には、明確な「力」が備わっていた。

 ――いや…だ…。た…たすけて…たす……

 その圧力に呑まれ、少女は体と思考の自由、そして意識を、いとも容易く失っていったのであった……。

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